米国の保守派に最大の敵を聞くと、なんと「ヨーロッパ」だという。社会保障給付の増大が招く軍縮はいまやアメリカにとって他人事ではない。『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀』の著者でもあり、ピューリッツァー賞受賞・WSJコラムニストが分析する欧米の「社会民主主義化」とは。

米国タカ派の恐れる
「ヨーロッパ」化とは?

 伝統的なタカ派に、現代のアメリカで最大の脅威は何か聞いてみるといい。おそらくイラン、北朝鮮、中国、あるいはアルカイダの復活など、よく知られた敵を挙げるだろう。

 しかし自由主義的な新種の保守派に同じ質問をすると、「ヨーロッパ」という答えが返ってくるだろう。その背景には、アメリカがヨーロッパのような社会民主主義に傾けば、行きすぎた規制と課税と組合化によって、労働意欲は低下し、「ゆりかごから墓場まで」社会保障を求める要求が高まり、財政赤字は半永久的に拡大する、という不安がある。

 それは根拠のない不安ではない。イラクから撤退したのに、連邦政府の歳出は二〇〇七年からの五年間で一兆ドル以上増えた。不況は二〇〇九年六月に底を打ったはずなのに、オバマ政権発足時は三二〇〇万人だった食料配給券の受給者は、二〇一三年には四七〇〇万人に増えた。

 仕事探しをあきらめた人が増えたせいで失業率は低下したが、就業率は一九七八年以来で最低で、二〇一四年五月には六三%を切った。いまや社会保障費は連邦予算の六二%を占める。二〇〇二年からの一〇年間で社会保障給付は三五%、メディケイド(低所得者医療保険制度)の給付は四六%、メディケアは七〇%増えた。

 社会民主主義を最も長期的に実践してきたのは、現代のヨーロッパだ。そして社会民主主義が外交政策にどんな影響を与えるかが最もよくわかるのもヨーロッパだ。

社会保障給付の拡大は、国防支出を圧迫する。兵士の装備を改善するか、年金を支払うかという選択に直面したら、有権者は例外なく年金を選ぶものだ。

 一九八八年はGDP比四%だったイギリスの国防支出は、二〇一二年には二・五%まで減り、その後も低下を続けている。フランスも同三・六%から二・五%に、ドイツは二・九%から一・四%に、イタリアは二・四%から一・七%に減った。