超人気社会派ブロガー・ちきりんさんと、メディアへの深い知見と多彩なビジネス経験をもつ田端信太郎さん(LINE株式会社・上級執行役員 法人ビジネス担当)による対談の第3回です。
ともにベストセラーの著作を持ち、SNS上で多数のフォロワーに支持される二人は、本や情報の持つ「価値」や、そのプライシングについて、どのように考えているのでしょうか?(構成/崎谷実穂 写真/疋田千里)

免罪符としての『21世紀の資本』

ちきりん これは『マーケット感覚を身につけよう』の出版記念の対談ですが、この本を出す前はプレッシャーが大きかった。だって売れなかったら「エラソーに講釈をたれる前に、まずは自分の本を売るのにマーケット感覚を働かせろよ」って言われる(笑)。

田端信太郎(以下、田端) 僕も『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』を出したとき、どれくらい売れるか読めませんでした。まあ、最大売れて10万部かなと。人を動かすことについて書いた本が1万部も売れないのはさすがに恥ずかしいから、すぐに増刷が決まってほっとしました(笑)。


ちきりん 本のマーケットでは、予測できないこともよく起こりますよね。トマ・ピケティ氏の『21世紀の資本』が、13万部を超えるなんてびっくりしました。で、あの本は読者にどんな価値を与えたのかって考えると、おそらく、ある種の知識層に、免罪符を求める気持ちがあって、それを満たしてくれるという価値があったんだと思うんです。「自分も格差についてちゃんと考えてますよ」、「社会に対して問題意識を持っていますよ」、とアピールしたい人に、その証拠となるわかりやすいグッズとしての価値を提供した。こういう、「ちょっといいことをしてるとアピールできるモノやサービスの市場」って、けっこう大きいんですよね。ハリウッドセレブが、エコカーを買うのも同じなんだけど。

田端 ああ、僕、例えば、フェアトレードっていう言葉は免罪符マーケティングの典型だと思っています。でもそれは悪いことじゃないですよね。そういうラベルを設定しない限り、エチオピアのコーヒー農家の窮状なんて、先進国の人は誰も想像しなかったわけじゃないですか。それでいうと、ちきりんさんの本にあった「日本の私的援助市場では、なぜか、『カンボジアの子ども』の競争力が高い」という箇所、おもしろかったですね(笑)。

ちきりん ああいうの、理解してる人、少ないんですよ。

田端 しかも日本だと近すぎて、援助対象になった子どもが実際に、どんな生活をしてるかわかる。そして、ちょっと贅沢してると思われると援助対象としての、競争優位性を失ってしまう。だから、カンボジアくらいがちょうどいい距離なんだと。

ちきりん そう。かわいそうだと思って寄付をした子が妖怪ウォッチ持って3DSやってたらもうアウト(笑)。かわいそうな人は、あくまで「かわいそう」でないとダメなんです。

田端 わかるなあ(笑)。だからほんと、免罪符なんですよね。ピケティ本だって、本気で格差をなくそうと思って、皆読んでいるんじゃなくて、「私は格差を憂えてます」とアピールしたいインテリ既得権層に、その免罪符を提供するような構図で売れてるとしか思えない。だって1冊6000円近くもするんですよ(笑)。本気で、マルクスの『資本論』のように、エスタブリッシュメントな資本家や資産家への政治闘争をしかけるつもりなら、無料で電子書籍等で出すべきです。