創続総合研究所

争いの引き金は、お金ではなく感情
~生きているうちに遺産の話をするのは、縁起が悪い!?

一番大事なのは、「被相続人の気持ち」

八木 では、「設計図」の二つ目は?

小林 相続が発生する前、すなわち亡くなる前に、自分の意志を相続人にしっかり伝えておく、ということです。要するに、「生前に相続の話をしましょうよ」ということ。建物の設計図だって、現場に入る前に、机の上で開いていろいろ議論するでしょう。どんなに完璧な遺言書であっても、「実は、故人はこんな遺言を残していました」といきなり見せられたら、相続人は、往々にして混乱をきたしてしまう。心の準備がないですからね。
 だから、「相続はこうするよ」「その理由はこうだよ」ということを子どもに率直に話しておく。それについて子どもの側に異議があるのだったら、そこで話し合えばいいじゃないですか。

八木 被相続人がいなくなってからいがみ合うくらいなら、生きているうちに揉めて、解決できることはしておいたほうが、確かに生産的に思えます。

小林 遺産分割協議でよく問題になるのが、遺言書が出てきても、「これ、認知症のおふくろに、兄貴が無理やり書かせたんじゃないか」というパターン。事前に肉声で語っておけば、その疑心暗鬼は生まれないはず。きちんと話したうえで、その中身を遺言書にしておくのが理想です。
 ただし、それができるのは、被相続人が「元気」なうち。寝たきりになって相続人の誰かに介護を受けたり、入院したり、といった状況になってからでは、言いたいことも言えなくなってしまいますから。

八木 でも、現実には、なかなかハードルの高いお話にも思えます。生前に遺産のことを切り出すのは、ちょっと……。

小林 「縁起が悪い」と(笑)。日本人には、「親が生きているうちに遺産の話をするのは、はしたない」という心情も、根深くありますよね。ただ、そうやって、最後の最後まで曖昧にした結果、相続人たちが、しなくてもいい争いを繰り広げることになるかもしれないわけです。これからは、「生前に相続のことを持ち出すのは憚られる」という、これもある種の“感情の壁”ですが、その克服を、みんなで考えていく必要があるのではないでしょうか。まあ、簡単なことではないですけれど。
 話はそもそも論になりますけれど、私は、「日本人は相続を誤解している」と感じるんですよ。

八木 それは、どういうことでしょう?

小林 相続の主人公は誰か、最も大事にすべき「気持ち」は何か、ということなんです。ともすれば、「法定相続分は、配偶者が2分の1、子どもが2分の1」っていうような話に、まずなるでしょう。あたかも、その権利を享受するのが相続であるかのように。相続人の要求のほうが「優先」される風潮が、争いの多発を招いているように思うんですね。
 そうではなくて、相続で最優先されるべきなのは、何よりも被相続人(親)の考えであるはず。「親の財産を、その意志に従って相続人(子)に分け与えるもの」というのが、私の相続の定義です。論より証拠、法律的にも、優先されるのは被相続人の遺言の中身で、法定相続分は、遺産分割の合意ができなかった時の取り分という位置づけなんですよ。いつの間にか、そこが「転倒」しているように思えて仕方がないのです。
 相続人も被相続人も、もう一度、そうした原点に立ち返って、「相続とは何か?」を見つめ直してみる。案外そんなことが、争いごとを防ぐ一番の近道なのかもしれないですね。

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八木美代子 [株式会社ビスカス代表取締役]

早稲田大学卒業後、リクルート入社。1995年に株式会社ビスカスを設立。税理士を無料でご紹介するビジネスモデルを日本で初めて立ち上げ、現在まで10万件以上のマッチングを実現。相続に強い税理士のみを集めたサイト「相続財産センター」を運営し、相続コーディネーターとしても業界ナンバーワンの実績を誇る。著書に『相続の現場55例』(ダイヤモンド社)、『相続、いくらかかる?』(日経BP社)、『相続は『感情のもつれ』を解決すればお金の問題もうまくいく』(サンマーク出版)などがある。
株式会社ビスカス

 


相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術

相続の別名は、「争続」。仲の良かった兄弟姉妹が親の遺産を前に骨肉の争いを演じるというのは小説やテレビドラマの中だけの出来事ではないようです。諍いの中心はもちろん「お金」。ですが兄弟姉妹には、他人がうかがい知ることのできない「本音」「思い」があるようで……奥底にある「心の綾」を解きほぐすと争いから一転、分かりあえるのが家族。そうした「ハッピー相続」の例を解説します。

「相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術」

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