前回、わが国の地方選挙の投票率が低い問題を取り上げた際に、フランスでは投票率が高い(75%程度)ことをご紹介した。しかしながら、同じ欧州でも英国は低い投票率(35~40%程度)に悩んでいる。そこで今回は、そんなフランスと英国を比べた上で、わが国について振り返ってみることとしたい。
(注1)本稿の記述は、主として『地方自治』第653号、第797号-801号、及び、山下茂明治大学教授(元自治省)の『比較地方自治』1992.9、『体系比較地方自治』2010.10によっている。
フランスの高い投票率の
背景にあるもの
フランスの地方選挙の投票率が高いのは、それが「地方政治を左右し」、さらには「国政にもつながる」実態を持っているからである。まず、「地方政治を左右し」という点は、フランスの地方選挙がもつ安定した執行部を成立させる独特の仕組みを基盤としている。たとえば、市町村(コミューン)の選挙では、各党の候補者名簿への投票が行われるが、多数派には必ず2分の1の議席が配分される仕組みがある(多数派プレミアム)。首長は、選挙後の市町村議会で互選されるが、そのようにして多数派となった党派の候補者名簿の筆頭者が選ばれる。
そして、そのようにして選出された首長が議会の多数派の上に安定した執行部を組織して地方政治に当たるわけであるが、日本のような国による財源保証がないので、その執行部のやり方によっては、その地方の税金が毎年でも引き上げられることになる。そのような形で、地方政治が選挙によって左右される仕組みがビルトインされているのである。
次に、「国政にもつながる」という点に関しては、地方自治の担い手と国政の担い手(政治家および官吏)の兼職が認められていることがある(注2)。国民議会議員の90%が地方議会議員を、45%がコミューンの首長職を兼任している。かつてのシラク元大統領は、同時にパリ市長であった。サルコジ前大統領も、大学在学中にパリ郊外のヌイイ=シュル=セーヌ市の市会議員に最下位当選したことを振り出しに、1988年に国民議会議員、1993年に予算相などを歴任して、2007年に大統領になったのである。
(注2)我が国でも、戦前には地方自治体の首長が国会議員を兼職していた。たとえば、 安倍総理の祖父、安倍寛氏は昭和12年から山口県油谷町長と衆議院議員を兼務していた(『週刊新潮』2003. 10. 9])。なお、英国でも国会議員が地方議会議員を兼ねることができるが、その例は少ない。