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上久保誠人のクリティカル・アナリティクス

野党にとって安保法制の「落としどころ」はどこか(上)

上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]
【第109回】 2015年6月26日
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 安全保障関連法案(安保法案)の国会審議が本格的に始まっている。自衛隊が後方支援できる地域について地理的な制約を外した「重要影響事態」とはなにか、集団的自衛権行使が可能となる「存立危機事態」の基準はなにか、自衛隊の海外派遣の範囲拡大に伴い自衛隊員のリスクは増すかなど、さまざまな論点が議論されている。

安保法案をめぐる政府答弁の粗さと国会の混乱、
「廃案」を目指して勢いに乗る野党

 だが、国会論戦において政府側の答弁の粗さが目立っている。例えば、安倍首相は「自衛隊員のリスクが増すか」という質問に対して、あまりに簡単に「リスクはない」と断言してしまい、かえって野党の追及を強める結果となった。また、「南シナ海での機雷掃海の可能性」という質問に、中谷防衛相が「いろんな要素が加えられて判断する」と答弁したが、安倍首相が「南シナ海では迂回ができる。ホルムズ海峡のような海峡は想定しにくい」と否定するなど、閣僚間の見解のズレが明らかになる場面も目立っている。

 政府側の「失言・暴言」も多い。柿沢未途維新の党幹事長が「武力行使」と「武器使用」の違いの説明を求めた際、中谷元防衛相は「それがわからないなら議論にならない」と発言し、後に陳謝することになってしまった。また、社民党の辻元清美氏が質疑中に自説を長々と展開した際、安倍首相がイラついて「早く質問しろよ」とヤジを飛ばしてしまい、これも陳謝せざるを得なくなった。

 安保法案が国会提出される前の与党内の協議では、公明党が様々な論点で厳しい指摘を繰り返し、「前のめり」になりがちな自民党の「歯止め役」となっていた(第104回)。しかし、国会審議が始まると、答弁するのは「自民党」の首相・閣僚だ。国会審議が続くうちに、首相は安保法案に対する「個人的思い入れ」を隠せなくなり、自民党の「自衛隊の活動範囲を際限なく拡大したい」という思惑も露骨に出るようになってきた。これまで「歯止め役」だった公明党は、国会では質問する政党の1つに過ぎなくなり、粗っぽい答弁を続ける自民党に対して「無力」となった。

 安倍政権の答弁の粗っぽさに対して、民主党など野党は猛反発し、国会で連日激しい追及を行った。また、「衆院憲法審査会」において参考人として招集された3人の憲法学者が、集団的自衛権の行使容認を「違憲」とする意見を表明したことが、国会内外の安保法案への反対派に火をつけた。

 安保法案への反対は、国会の外に広がっている。国会の周辺では、安全保障関連法案に反対する集会が行われている。6月14日には、市民団体の呼びかけに、約2万5000人が国会議事堂を取り囲んだ。また、集会には学者や、民主党の長妻昭代表代行、共産党の志位和夫委員長など野党幹部も駆けつけ、「憲法の範囲を超えて政治家は法律を制定してはいけない」「戦後最悪の戦争法案を廃案にしたい」と叫んだ。

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上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]

1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。博士論文タイトルはBureaucratic Behaviour and Policy Change: Reforming the Role of Japan’s Ministry of Finance。

 


上久保誠人のクリティカル・アナリティクス

国際関係、国内政治で起きているさまざまな出来事を、通説に捉われず批判的思考を持ち、人間の合理的行動や、その背景の歴史、文化、構造、慣習などさまざまな枠組を使い分析する。

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