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上久保誠人のクリティカル・アナリティクス

野党にとって安保法制の「落としどころ」はどこか(下)

上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]
【第109回】 2015年6月26日
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>>(上)より続く

野党の安保法案の国会戦略(1)
「対案」を出してはいけない

 野党が「55年体制」を参考にした国会戦略を立てる際、気をつけなければならないことがある。まず、「対案」など出して、与党との協議を始めては、絶対にいけない。

 かつて、民主党が政権を担当する前、岡田克也代表(第一次)や前原誠司代表の時代に「対案提出主義」が打ち出されたことがある。これは、自民党とマスコミの「民主党は政権担当能力がない」という民主党批判に対応しようとして始まった。ところが突き詰めて考えてみると「政権担当能力」というのは、いったい何を指しているのかよくわからない曖昧な言葉である。自民党やそれに乗ったマスコミが民主党批判のために都合よく作った言葉でしかなかったからだ。

 そもそも「対案提出主義」というのは、英国をはじめ他の民主主義国のどこにも存在しない。「対案提出が野党の義務」という考え方は、世界では例外的なものだった。これも、日本で自民党が長期政権を続けていることと関連している。

 英国など欧米民主主義国では、適当に政権交代が起こっているので与党も野党も政権担当の経験がある。それらの国では政権運営の良し悪しを問われることはあっても「政権担当能力」そのものを問われることはない。だから、欧米民主主義国の野党では、対案提出はせず、野党はその本来の役割である与党の政策の問題点を厳しく批判する役割に徹しているのである。そして、国民もその野党の役割を理解している。

 結局「対案提出主義」とは、日本の自民党に都合よく作られたものだといえる。実際、岡田・前原代表期の民主党は、「対案提出主義」に悩まされ続けた。政策に関して得られる情報が少なく、官僚というスタッフも使えない。対案は実現性がないと批判されるだけであった。また、対案を元に自民党と法案の修正協議に入ることがあっても、結局はしたたかな自民党にいいとこ取りをされた。民主党の支持拡大にはつながらず、自民党の手柄にされてしまったのだ。

 現在の政治に話を戻す。気になるのは、維新の党の動きだ。安保法案に関しては基本的に民主党と歩調を合わせている。だが、松野代表は、安保法案を巡る修正協議について「応じるつもりは全くない」と述べる一方で、政府が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」の明確化や自衛隊派遣の「歯止め」の強化を盛り込んだ、独自の対案をまとめる方針を示している。松野代表は「維新案を政府案と比較し、議論して国民に理解を求めることは必要だ」とも指摘し、自民、公明両党は対案を出せば修正協議に前向きな姿勢を見せている。

 だが、繰り返すが、維新は安保法案の「対案」を出すべきではないし、「法案修正協議」にも応じるべきではない。与党と協議し、なんらかの合意をしても、政府が安保法案成立に成功したという事実が残るだけである。逆に、野党の成果には絶対にならない。野党を支持する安保法案反対の国民が望むのは、あくまで「廃案」だからだ。法案を修正して通すことは敗北そのものである。野党とその支持者に決定的な「挫折感」を味あわせることになるだけなのである。

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上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]

1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。博士論文タイトルはBureaucratic Behaviour and Policy Change: Reforming the Role of Japan’s Ministry of Finance。

 


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国際関係、国内政治で起きているさまざまな出来事を、通説に捉われず批判的思考を持ち、人間の合理的行動や、その背景の歴史、文化、構造、慣習などさまざまな枠組を使い分析する。

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