構造改革を経て多くの日本企業が過去最高益を記録している。とはいえ、未来に目を向ければ「持続的成長の実現」は依然として大きな課題だ。そして、持続的成長を可能にする鍵は、時代を先取りして自らが変革し続けることができるかどうか、すなわち組織の「自己変革力」である。
多数の企業変革に関わってきたデロイト トーマツ コンサルティング パートナーの松江英夫が、経営の最前線で果敢に挑み続ける経営トップとの対談を通じ、持続的成長に向けて日本企業に求められる経営アジェンダと変革の秘訣を解き明かす。
連載18回目は、前回に引き続きデュポン株式会社代表取締役社長・田中能之氏に日本の強みをグローバルにおいていかに示すか、などのお話を伺う。

規模や成長性では競わない
日本の強みは、“日本発の製品”があること

松江 今回伺いたいテーマにグローバルに日本のプレゼンスをどう示すかという点があります。特に日本の強みを活かして存在感や価値を上げるうえで何が大事だとお考えですか。

マーケット規模では表せない <br />日本の強みを“数字”で世界に示す田中能之(たなか・よしゆき)
デュポン株式会社 代表取締役社長 福岡県出身。東京大学大学院理学系研究科卒業後、デュポンファーイースト日本支社(現 デュポン株式会社)に入社。iテクノロジー事業部事業部長などを経て2001年より取締役。米国デュポン社回路基板材料事業グローバルビジネスディレクター、デュポン アジア パシフィック リミテッドで高機能材料事業、半導体製造材料事業のグローバルビジネスディレクターを経て2013年1月より現職

田中 それは非常に大きなポイントです。私もいろいろ苦労しています。ただ、日本の独自のものは何かを考えたときに、アメリカと違うところ、中国と違うところは比較的わかりやすい。中国は、たとえばボリュームがあって、これから伸びます。日本の場合は、ボリュームや、どれぐらい伸びるかを中国と競ってもあまりよくない。でも、“最初に生まれるのは日本”という、製品・サービスで日本発のものは結構多いのです。実際に、日本から生まれてグローバルに広がるものは、エレクトロニクスや自動車関連、食品関係で多くあります。それを日本のマーケットの特色としてうたって、日本でやる意味があることを、具体例を見せながら、グローバルに理解してもらう試みを行っています。

 たとえば、自動車でいえばハイブリッド車の中に入っているデュポンの材料は、普通のクルマの中に入っている材料より多いのです。だから、グローバルに対しては「ハイブリッド車が売れたほうがデュポンにとってメリットが大きい。ただ、それは日本でハイブリッド車が先行しているからこそ浸透したのですよ」という議論が成り立つのです。

 それから古い話ですが、太陽電池は日本で30年ぐらい前からずっとやっていたんです。私どもは、30年ぐらい前には何にも持ってなかったのですが、ここ5、6年でその中に入る電極ペーストを開発しました。それが生まれたのはそもそも日本だったわけですが、中国ですごく売れて、ヨーロッパでもすごく売れました。そうすると、これ中国で売れているから、中国の成果じゃないかと思う人もいるんですが、ちょっと待ってよと。日本にマーケットがあって、日本に技術があって、日本にお客さんがいて、開発したのは日本じゃないかと。これは日本がやらなかったらできなかったこととして常に謳っていかないといけません。

 数字では見えない部分がありますから。売上のほうが数字で見やすいですが、私どもは、そことは違ったところに日本の価値があると考えています。ほかの国とは違うことをきちんと伝えて、日本でこういうことをやりましょうという話をしようとしています。