これまでの連載から、思い込みはあなたの人生、生活、考え方などすべてにかかわるものだと理解していただけたはずだ。『人生の99%は思い込み』の著者である心理学者の鈴木敏昭は、成功者の「根拠のない自信」も、血液診断をつい信じてしまう心も実のところ思い込みだと語る。連載最終回では、あなたの思い込みをさらに紐解いていく。

成功者の「根拠のない自信」も
思い込み

決まりかけた人生だって、ガラリと一変!<br />「思い込み」を利用すれば人生はうまくいく

ビジネスで成功する人は「根拠のない自信」を持っていると、よくいわれている。
この「根拠のない自信」も、言わずもがな思い込みである。

 ソフトバンクの孫正義氏が、起業したばかりのころは「将来は豆腐屋のように、売り上げを一兆(丁)二兆と数えるような会社にしたい」と二人だけの社員に向かっていい、呆れた社員が辞めてしまったというエピソードがある。
 これも根拠のない自信だと言えるだろう。しかし、その自信をもって事業に果敢に挑んだ結果、今はアメリカにも進出するぐらいの規模の一大企業になった。2014年3月期に、営業利益が初めて1兆円を突破したと報じられたように、本当に言葉通りになっているのだ。
「夢は思い続けていれば叶う」「思考は現実化する」という言葉もある。実際には、どんなに思い続けても夢が実現しないまま終わる人もいる。それでも、こういった前向きな言葉を信じたくなるのは、やはり自分の可能性を信じていたいからだろう。
 しかし、こういうポジティブな思い込みが原動力となって、人は信じられないぐらいの実力を発揮することもある。根拠のない自信があるから、目の前の壁を乗り越えられると信じることができるのだし、自分をステップアップできるのだ。

 イギリスの家電メーカーのダイソンの創業者であるジェームズ・ダイソンは「僕が成功したのは運がよかっただけ。でもその運は引き寄せられるんだ」と語っている。
 この言葉だけを聞いたら、単なるラッキーで成功したのだと思うかもしれないが、実際にはそうではない。紙パックがいらないデュアルサイクロン掃除機を開発するまでに、5年間もかけて、5127台の試作を重ねたというのだ。運ではなく、努力して理想の製品を完成させた結果なのである。その製品が売れるかどうかは、確かに運が関係しているのかもしれない。しかし、売れなかったらまた製品を改良して、売れるまで続けていたのではないかと思う。
 そこまで試作を重ねたのは、「この製品は絶対に売れる」「この掃除機が世界を変える」という信念があったからだろう。そのようないい思い込みがあるから行動力も生まれ、成功に結びつくのだ。
 もちろん、そういった自信に根拠はない。よって信念があれば成功するというのも思い込みに過ぎないことは覚えておかなければいけない。
 こうした根拠のない自信を持つのは「自分はOK」という構えの確認である。
 ひとつ懸念を示すなら、思い込みを良い方向に活用すれば成功するかもしれないが、「根拠のなさ」が裏目に出ると失敗するということだ。

「血液型性格診断を信じる気持ち」が
思い込みを生む

 血液型は初対面の人と盛り上がれるネタの一つだ。
 学問的には、血液型と性格には関連はないというのが定説だ。
 そもそも血液型はA、B、O、AB型の4種類ではない。
 きわめてまれな血液型は日本では20種類以上登録されており、「ボンベイ型」「スモールピー型」「バーディーバー型」などと呼ばれている。そのような血液型の人は、血液型占いで何を基準にしたらいいのかわからず、困っているかもしれない。ちなみにボンベイ型はO型に分類されているが、最近の研究では独立した型だという意見もあるようだ。血液型とは4種類という考え方自体、思い込みだともいえる。

 ちなみに血液型占いがこれほど流行っている国は、日本以外にあまりない。たとえばアメリカ先住民のインディオは人口の70%以上がO型であった。そのような民族の場合は、血液型で性格を分類することがそもそも意味をなさない。日本の場合、血液型がA型を多数として、適度な比率で4種類にばらけていることが、流行の土壌になっていると思われる。

 日本で血液型占いが流行る理由としては、次のことが考えられるだろう。

・仲間と集まったときの場の雰囲気に合わせるのには、血液型の話題は誰もが参加できるので都合がよい。他人とのコミュニケーションのきっかけとして血液型の話は当たり障りがなく、単純でわかりやすい。

・「A型は几帳面」「B型は変わっている」「O型はおっとりしている」「AB型は感受性が鋭い」など、誰にでも当てはまりそうな特徴が、どの血液型にもある。

・人見知りしがちな日本人にとっては、相手の性格を「こういう人だ」と分類し、認識するうえでとても便利な道具となる。相手の価値観や考え方について、つっこんだ質問や会話をしなくとも、「あの人はAB型だから」といった具合に、他人を理解した気分になれる。


 そもそも日本人は位置づけが大好きである。
 人を「大企業に勤めている人はしっかりしている」「公務員は信頼できる」などと、属している集団で判断する。自分の頭で考えて判断しないのだ。

 血液型性格診断を信じている人は、経験的に「B型の人はわがままで変人が多い」と思っている。自分が今までに出会った数人のB型の人が、その性格類型に当てはまるからだ。だが数人のサンプルでは、それが統計的に正しいとは言えない。「わがままな変人」はB型の人だけでなく、他の血液型の人にもたくさんいる。
 それでも「あなたはB型だから、ちょっと人と変わったクリエイティブな才能があるよね」などと他人から言われると、「やっぱりそうなのかな」などと信じこんでしまう。

 心理学では、これを「フリーサイズ効果」または「バーナム効果」と呼んでいる
 占いや血液型による性格診断など、誰にでも該当するような曖昧で一般的な性格に関する説明を、まさに自分のことだと思い込んでしまうことを意味する。

 1948年、アメリカの心理学者バートラム・フォアは、学生たちに「君たちの性格について心理検査した結果を教えよう」と伝えた。そして、「あなたはかなりの才能を持っている」「あなたは外交的で社交的な一面を持っているが、内向的で用心深い一面も持っている」などといった言葉を文章にして伝えた。
 その言葉を聞いた学生たちは、いずれも「非常に自分に当てはまっている」と感じたと答えたが、じつはフォアは、どの学生にもまったく同一の文章を伝えていたのである。

このように誰にでも当てはまるような性格分析を、自分だけの特別なこととして受け止める傾向は誰もが持っており、それが自分の性格を形づくる思い込みとなっている。
 よって、血液型によって性格が異なるのではなく、血液型診断を信じることが思い込みを生んでいる
と言えよう。

 「思い込みの脚本から脱却し、人生を思うままに生きるヒント」連載、いかがだっただろうか? 思い込みはあなたの人生の99%を支配するもの。まだまだ語り尽くせない。詳細は、「人生の99%は思い込み」を参照していただきたい。
 思い込みから脱する方法、思い込みを上手に活用する方法なども収めている。

 思い込みを自覚し、思い込みを遊ぶ心を持つことで、いっそう人生を楽しめるよう願っている――