思い込みはあなたの人生、生活、考え方などすべてに関与している。『人生の99%は思い込み』の著者である心理学者の鈴木敏昭があなたの一生を左右する思い込みの正体にさらに迫る。常識、世間体、相手からどう思われているかなどすべては思い込み。具体的な思い込みの事例をみていく。

あなたの常識からの縛られ度を測定!
「常識」「世間体」「空気」という思い込み

あなたの「思い込み度」をチェック!<br />6個以上◯だったら思い込み体質!?

 あなたは「世間体」と聞いて、何をイメージするだろうか?
 世間とは不特定多数のことを指し、ハッキリと「町内の誰々さん」と思い浮かべられない漠然とした対象だ。
 日本では世間の目を気にして、道徳やモラルが生まれた部分も多い。
 外国人から見れば、車は一台も通っていないのに赤信号で歩道を渡らずに待っている日本人の姿は、奇異に映るらしい。サッカーのワールドカップで観戦していた日本人サポーターが、ゴミ拾いをして帰る光景は、海外のメディアでも称賛されていた。
 日本には、「他の人に迷惑をかけてはいけない」「世間で決められたルールは守らなくてはならない」という暗黙の了解があるからだ。
 対して、欧米では宗教が道徳やモラルの規範になっている。
 だから、世間の目はあまり気にしない。人は人、自分は自分という個人主義があり、そのうえで神様と自分との関係が成り立っているのだろう。

 ここで、あなたの思い込みに迫るテストをしてみたい。次の設問で当てはまるものにチェックをつけてほしい。

□子どもが学校へ行くのは当然だ。
□場の空気に水を差さない方がよい。
□女性に年齢を聞くべきではない。
□デートでは男の方がおごるべきだ。
□相手の年齢・地位などによって対応を変えるのは当然だ。
□社員(生徒)の不祥事に上司(校長)が直接関係なくても謝罪するのは当然だ。
□みんなが残業しているときに、一人だけ定時に帰るのはおかしい。
□外出前に髪や化粧(とくに女性)など身だしなみを整えるのは当然だ。
□年賀状などには返事をするべきだ。
□大人になったら、結婚して子どもを持つべきだ。

6個以上○が付いたら、常識に縛られていると言える。

 この思い込みに支配される傾向にあるのは「自分はNG、他人(みんな、世間)はOK」という構えを持っている人だ。そして「自分からは何もするな」「自分の頭で考えるな」「重要な人になるな」などの禁止令が存在する場合が多い。そして、集団・周囲に「依存する」ゲームを演じやすいのだ。

 もちろん、これらのことに従うなとはいわない。私自身も、社会生活を営むうえで、疑問を持ちながらも従っていることは多い。大切なのは、無条件で信じないことだ。疑問を感じる心を封印してしまったら、思い込みから逃れられなくなる

「普通」や「常識」とはその時代、その社会に生きているほとんどの人が信じている考え=思い込みのこと。家庭、学校、会社、趣味の場などあらゆる場で、常識にしていることは満ちあふれている。

 それが害のないことならいいだろう。世の中にはマナーやルールがあるから、秩序が生まれ、私たちは混乱しないで生きていける
 ただ、「みんなが残業しているときに一人だけ帰ってはいけない」のような考えに、盲目的に従わなくてはならなくなると、相当苦しくなる。そんな法律はないし、自分の仕事が終わっているなら家に帰っても問題ないはずだ。
 そういう思い込みは、誰かが断ち切らないといけない。世間の常識はいくらでも変えられるのだ。
 そういう場面で、「自分の生活を大事にしたいから定時で上がる」という信念を持つのは悪くないことだ。それが正しい選択だと思い込まないと、なかなか行動に踏み切れないだろう。そうやって自分の人生を充実させるために思い込みを利用するのは、むしろお勧めしたいぐらいだ。

 ひとつ付け加えるなら、インターネットも「常識」や「空気」を増長させるツールである。ある意見に対して「炎上」したりすると、あたかもそれが多数派、すなわち「みんな」の意見だと思い込んで、自分の判断基準にしてしまう。世論誘導の危険性すらあるのだ。
 また匿名性によって、全体的に意見が極端化する危険性も感じる。これらは本当に「みんな」の意見なのか、自分自身の判断はこれらに流されてはいないか、よく考える必要があるだろう。

「嫌われているのではないか?」
という心配も思い込み

 あなたも子どものころから「相手の気持ちになって考えてみなさい」と周りの大人から言い聞かされてきたのではないだろうか。
 ビジネスでも、よく「顧客の立場に立って考えろ」「顧客のニーズを読め」などといわれる。
 果たして、人の気持ちはそんなに簡単に分かるものなのだろうか。多くの場合は、分かった気になっている、つまり思い込みにすぎないだろう。

 一方で、あなたは「人に悪く思われている」「嫌われているんじゃないか」と感じたことはないだろうか。
 人の立場に立ち、相手の気持ちを考えるのはひじょうに難しいのに、人のネガティブな気持ちはすぐに分かったつもりになってしまう。上司が不機嫌そうな顔をしていたら、「何か怒らせるようなことをしたかな」と勝手に憶測して、そっと離れる人もいるだろう。あいさつを返してもらえなかっただけで、「あの人は自分を嫌っているのではないか?」という思いにとらわれる。
 心理学の世界で、「読心」という言葉がある。ただし、超能力のテレパシーのように、相手の心を読み取る読心術ではない。これは「認知のゆがみ」という症状の一つである。相手のささいな振る舞いや、ちょっとした言葉から、「きっとあの人はこう考えているに違いない」と、他人の心理状態を決めつけてしまうことを意味する。度が過ぎると、すべて悪い方向に結びつけてしまうので、気を付けたほうがいい思考だ。

 こうした思考に陥りやすいのは「自分はNG、他人はOK」の傾向がある人だ。自分に自信がない一方で、他人の価値観や評価にはとても敏感なのである。
他人の敵意や悪意を感じても、それがあるかないかは簡単には分からないし、仮にあったとしても気にする必要があるかどうかは検討の余地があるだろう。

 次回は、どのような場面で思い込みが根付いているのかを紹介していく。