「この1~2週間、財務省の動きが慌ただしい。銀行に対する何か厳しいルールが新しく出てくるかもしれない」──。ギリシャ問題が火を噴くさなか、あるメガバンク幹部はそう言って余波への警戒感をあらわにした。

 その頭によぎっていたのは、銀行が持つ国債への規制強化だ。世界を巻き込む金融危機を二度と起こさないよう、世界の監督当局が銀行の国際的なルール作りを進めている。その中でテーマの一つになっているのが国債の信用リスクだからだ。

 企業への貸出金といった銀行の資産には大抵、価値の急落で銀行が経営危機に陥らないように、価値の変動リスクに対して自己資本の余裕を持たせるルールがある。しかし、「安全資産」といわれてきた国債には今のところその必要がない。

 ところが、2009年のギリシャ財政問題に端を発した欧州債務危機で、欧州では国債のデフォルト(債務不履行)リスクが強く意識されるようになった。そして、銀行が持つ国債に対して、国際ルールで自己資本の積み増しを求める議論が欧州を中心に出てきているのだ。

 これに面食らったのが邦銀だ。図のように、日本は政府債務の絶対額でも対GDP比でも世界でワーストクラス。そのため、邦銀の国債保有額は115兆円(15年3月末時点)と世界でも群を抜く。保有額に対して、仮にわずかな掛け目でも資本の積み増しを迫られれば大問題だ。「欧州にその気がなくても日本の“狙い撃ち”だ」(別のメガバンク幹部)と、銀行界は声を荒らげる。

 また、邦銀が国債を持ちにくくなれば国の財政問題に発展する。「低金利で安定的に国内消化している日本国債と、ギリシャ国債を一緒にされてはたまらない」と、日本の政官民が一体となって国際的な議論を押し戻す努力を続けていた。

 その折に再燃したのがギリシャ危機だ。国債のデフォルトリスクにあらためて焦点が当たり、「世界一律で国債保有の規制を強化する流れに持っていかれかねない」(同)と、邦銀関係者は危機感を強めている。