普通に考えれば、ギリシャは白旗を掲げるしかない。だが人はいつも合理的な判断をするとは限らない。世界史を振り返ると「なぜこんな選択を」という場面はいくらでもある。冷静な指導者がいたら、日本は大戦の口火を切ることはなかった。受諾するしかないポツダム宣言を判断できず、何十万人を犠牲にした。「国家の重大事」で為政者はなぜか危ないほうに舵を切る。

 多くのギリシャ人は「共通通貨ユーロ」を手放したくないようだ。「ならば交渉のテーブルにつき緊縮財政を受け入れろ」とEU側は迫る。ギリシャは「貧しい我々からまだ奪うのか」と納得できない。不満は論理を超え、怒りは敵に向かう。ユーロ離脱へとなだれ込む可能性はないとは言えまい。

 破綻国家が暴走すると、衝撃波は脆弱な市場を揺さぶる。上海は大丈夫か。株式バブルが崩壊すれば、社会主義市場経済に連鎖するかもしれない。カネは臆病だ。過敏症の投機マネーは引火性のガスのように世界を覆っている。

ギリシャはすでに詰んでいる
焦点は「デフォルトならどうなるか」へ

 6月末をゴールと見ていた債務交渉は平たく言えば、こんな具合だ。

 ギリシャの主張は「借金の完済は無理だ。債務を減免してくれ。新規融資を頼む」。

 交渉相手はEU委員会、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)の三者。いわゆるトロイカである。

 トロイカは「分かった。貸そう。その代わり貸したカネがちゃんと返って来ないと困る。財政を切り詰めて返済する約束してくれ」。交渉の舞台裏では、公務員の数や年金支給額、課税項目、税率、歳入見通しなど財政の細部まで注文が付けられた。

 ギリシャは「付加価値税の増税や年金の減額など、もうできることはやった。これ以上は無理。新規融資も借金の返済で消えてしまう」と抵抗するが、トロイカは「まだ甘い。この程度の緊縮財政では返済はおぼつかない」。

 こんなやり取りが何ヵ月も続いた。トロイカは「借りたカネは返せ」「返さない借り手には新たな融資はできない」と厳格な金融ルールで迫る。「そんな脅しに屈するギリシャではない」とティプラス首相は席を蹴った。