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山田厚史の「世界かわら版」

歴史を忘れたドイツ人にギリシャを追い詰める資格はあるか

山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]
【第89回】 2015年7月16日
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Photo:mattiaath-Fotolia.com

 「合意」と呼ぶには際どい決着だった。EU首脳会議は、条件付きでギリシャへの融資を認めた。ギリシャが「緊縮財政を受け入れる」と妥協した時点で、合意は見えていた。「融資打ち切り」はユーロから放逐するに等しい。国民投票で勝った首相が、命乞いに等しい譲歩をしているのに、冷酷な決断を下せばどうなるか。貸したカネは戻らず、ユーロ体制に亀裂が走る。その責任はEU強硬派向けられユーロの傷は修復不能になる。

 ギリシャは追い出さず、厳しい条件で縛る。ドイツはそんな筋書きを書き、その通りの結果になった。「ユーロは当面の危機を脱した」と市場は評価したが、そうだろうか。

 ギリシャ問題は首脳など政治家のレベルを超え、今や民衆の対立になった。「怠け者を救うことに税金を使うな」と叫ぶドイツ国民がメルケル首相に強硬姿勢を強いている。「処方箋は債務減免」という債務問題のイロハさえ論外とする雰囲気だ。

 ギリシャの民衆は反ドイツに傾き「メルケルは更なる苦難を強いるのか」と怨嗟の声が上がる。債務問題の解決は「譲り合い」しかないが、負担を嫌う民衆の声が政治家に妥協の道を与えない。

 二つの世界大戦を経て欧州の知性がたどり着いた「統合の夢」は、不寛容な民意に翻弄され、分裂の危機を孕んでいる。

ドイツとギリシャは民衆対立へ
わずか2日で法案成立を要求

 15日までに緊縮財政を実行する法律を立法化せよ。合意の陰でドイツの強引な要求がギリシャを攻め立てた。合意を即刻法案化し、国会で審議し、可決させる。国論が割れる決定を2日で済ませとは、法治国家の常識を無視した要求だ。条件とは名ばかり、「命令」である。ギリシャ議会を軽視し、言った通りの法律を作れ、有無を言わさず呑ませろ、と言っているようなものだ。成熟した民主主義を標榜する欧州とは思えない乱暴な振る舞いである。

 EUは各国対等、互いに尊重し合うことを原則としていたはずだ。だがドイツなどにはギリシャに対する抜きがたい不信がある。もはや仲間と思っていない。

 債務交渉の途中で国民投票に訴えるなど言語道断という。だがティプラス政権は「緊縮財政反対」を掲げて政権を取った。過酷な要求を突き付けられ、ハイそうですか、と呑めない。国民に意思を問うのは筋の通ったやり方である。

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山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]

やまだ あつし/1971年朝日新聞入社。青森・千葉支局員を経て経済記者。大蔵省、外務省、自動車業界、金融証券業界など担当。ロンドン特派員として東欧の市場経済化、EC市場統合などを取材、93年から編集委員。ハーバード大学ニーマンフェロー。朝日新聞特別編集委員(経済担当)として大蔵行政や金融業界の体質を問う記事を執筆。2000年からバンコク特派員。2012年からフリージャーナリスト。CS放送「朝日ニュースター」で、「パックインジャーナル」のコメンテーターなど務める。

 


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元朝日新聞編集員で、反骨のジャーナリスト山田厚史が、世界中で起こる政治・経済の森羅万象に鋭く切り込む。その独自の視点で、強者の論理の欺瞞や矛盾、市場原理の裏に潜む冷徹な打算を解き明かします。

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