政府の成長戦略は、第4次産業革命に乗り遅れるなという。しかし、その前に必要なのは、新しい情報技術の時代において、われわれの生活と経済活動の安全を確保することだ。安保関連法案をめぐる議論には、この視点がまったくない。
第4次産業革命で
本当に必要なことは何か?
6月30日に発表された政府の「日本再興戦略」(成長戦略)は、これからの日本の成長を支えるものとして、「第4次産業革命」と言われるIoTや人工知能の活用を挙げた。その基本認識は正しいが、問題は「何をするか」だ。
同戦略は、これらの技術を開発するため、大学改革を進め、またベンチャー企業を促進するという。
「これらの技術は、大学やベンチャー企業によって開発されたものだから、日本でも同じようにしよう」ということなのだろうが、その発想は幼稚すぎる。
政府の成長戦略というのは、各官庁が進めたい事業の予算を獲得するための手段だから、「いま流行りのトピックを神輿にして予算を取る」ということになるのは、やむをえない。しかし、問題は非常に重要なので、もっと真剣に考えるべきだ。
私は、こうした部門での先端的技術開発を日本で行なうのは、無理だと思う。もちろん、できればそれに越したことはないが、大学改革一つをとってみても、気が遠くなるような話だ。百年河清を俟つよりは、すでに開発された技術を用いることができる社会の構築を、まず目指すべきだ。
それですら、容易ならざる課題だ。つぎの2つのことが必要だからである。
第1は、新しい技術を受け入れられるよう規制の緩和を進めることだ。これについてはすでに週刊ダイヤモンド連載、「超」整理日誌(第767号、2015年7月25日号)で述べた。
第2は、社会の安全性確保である。新しい技術には、よい面もあるが危険な面もある。われわれの生活を豊かにしてくれる可能性がある半面で、安全性を損なうおそれもある。よい面を利用する一方で、危険な面に備える必要がある。再興戦略は「政府機関等のサイバーセキュリティを抜本的に強化する」としているが、この程度のことで十分とは思えない。以下では、この問題を論じることとする。