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出口治明の提言:日本の優先順位

超高齢社会を支えるために最も大事なのは経済成長だ

出口治明 [ライフネット生命保険(株)代表取締役会長]
【第140回】 2015年8月12日
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 7月30日、厚生労働省は、わが国の2014年の平均寿命を公表した。それによると女性は86.83歳(前年より0.22歳の伸び)で3年連続の世界1、男性は80.50歳(0.29歳の伸び)でシンガポールやスイスと並んで3位タイだった(1位は香港、2位はアイスランド)。一方OECD諸国の医療費対GDP比率を見ると(2013年)、日本は10.2%で、G7の中では米国、ドイツ、フランスに次ぐ4位となっている。つまり、先進国の中では中位のコスト(医療費)で、ベストのパフォーマンス(長寿)をあげているのだから、わが国の皆保険制度は(少なくともこれまでのところは)優れた仕組みであると評価していいだろう。

健康寿命の延伸がポイント
そのためには定年制の廃止を

 ところで、平均寿命が延びたことを手放しで喜んでいいわけではない。人間の尊厳の一番シンプルで分かりやすい定義は「自分でご飯を食べて自分でトイレに行けること」である。つまり健康寿命がより重要なのだ。「ベッドの上で点滴を受けて生き永らえて人生に何の意味があるのだ」と欧米人は言うが、その通りだと思う。

 2013年のわが国の健康寿命は男性が71.19歳、女性が74.21歳であったので、介護期間(平均寿命-健康寿命)が、男性は9.31年、女性は12.62年あるということだ。少子高齢化が進み労働力の不足が深刻化しつつある日本で、十分な介護スタッフをこれからも確保していくことは容易なことではない。そうであれば、超高齢社会であるわが国にとって最も急を要する政策課題が、「健康寿命の延伸」にあることは自明であろう。

 では、どうすればいいのか。医療関係表は異口同音に「健康寿命を延ばすには働くことが一番だ」と口を揃える。当コラムでも述べたことがあるが、それには定年制の廃止が1番有効だ。60歳もしくは65歳などの誕生日が来たということで、能力も意欲もあるのに職を奪われることほど非人道的な制度はあるまい。われわれもアングロ・サクソン社会のように、年齢フリーの社会を創ってはどうか。履歴書には年齢欄はない、採用面接で年齢のことを尋ねるのは違法である等、既に立派な先例があるのだからそれを真似ればいいだけの話である。

 戦後の日本のように人口ピラミッドがきれいな三角形をしており、若者が大勢いた社会では、「一律に敬老精神を発揮する」こと(一定年齢で全員に公的年金を支給し、医療費等を安くする等)は、それなりの合理性を有していた。しかし、超高齢社会に突入した現在では、「一律敬老原則」を捨てて、政府本来の役割、つまり、公共財・公共サービスの提供とは何かという本質に立ち戻り、「年齢フリー」かつ「貧窮原則」を新たに打ち樹てるべきではないか。本当に困っている人に集中して給付を行うことこそが政府本来の役割なのだ。

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出口治明 [ライフネット生命保険(株)代表取締役会長]

1948年、三重県美杉村生まれ。上野高校、京都大学法学部を卒業。1972年、日本生命保険相互会社入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当。生命保険協会の初代財務企画専門委員会委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て同社を退職。その後、東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師などを務める。2006年にネットライフ企画株式会社設立、代表取締役就任。2008年に生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社に社名を変更、同社代表取締役社長に就任。2013年6月24日より現職。主な著書に『百年たっても後悔しない仕事のやり方』『生命保険はだれのものか』『直球勝負の会社』(以上、ダイヤモンド社)、『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『「思考軸」をつくれ』(英治出版)、『ライフネット生命社長の常識破りの思考法』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

ライフネット生命HP

 


出口治明の提言:日本の優先順位

東日本大地震による被害は未曾有のものであり、日本はいま戦後最大の試練を迎えている。被災した人の生活、原発事故への対応、電力不足への対応……。これら社会全体としてやるべき課題は山積だ。この状況下で、いま何を優先すべきか。ライフネット生命の会長兼CEOであり、卓越した国際的視野と歴史観をもつ出口治明氏が、いま日本が抱える問題の本質とその解決策を語る。

「出口治明の提言:日本の優先順位」

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