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佐藤可士和の打ち合わせ
【第11回】 2015年8月24日
著者・コラム紹介バックナンバー
佐藤可士和 [アートディレクター]

打ち合わせを重ねるほどに
お客さんからは遠ざかることを自覚せよ

打ち合わせはあまりにも身近で、そこかしこの企業で行われてきました。日本を代表するアートディレクター・クリエイティブディレクターである佐藤可士和氏も、その多忙な生活の多くを打ち合わせで費やしています。そして、たくさんの打ち合わせの経験からいかにそれが大切なものか『佐藤可士和の打ち合わせ』(ダイヤモンド社)で述べています。
今回は、ユーザーの視点に立つということの重要性をさらに掘り下げて考えていきたいと思います。また、打ち合わせを活性化させるためには、「たくさんのイメージを持参すること」が大切だという点もお伝えします。

情報を集めれば集めるほど
お客さんからは遠ざかる

 前回、準備をしすぎるとユーザーの立場で物事を見たり、新鮮に感動したりすることができなくなる危険性があるとお伝えしました。

 僕がそうしたユーザー視点の大切さに気づいたのは、博報堂時代、自動車メーカーの広告を作るプロジェクトに加わっていたときでした。
 プロジェクトに加わったとき、まわりはみんな長くその自動車メーカーに関わっていた人たちばかり。資料も膨大。

 実際の打ち合わせでは、エンジンのスペックについて、極めてハイレベルな会話が繰り広げられていきました。専門用語もバンバン登場します。「◯◯の角度が0.2度広角になったから……」「◯◯の数値が何パーセントも向上して……」といった具合です。
 僕にはチンプンカンプンでした。メモを取ろうにも、追いつかない。

 さらに、競合コンペの説明会では、質問をどうぞ、とクライアントから言われると、まわりのコンペティターは専門的な質問をどんどん繰り出します。僕は何も言えませんでした。これではいけない、みんなは自動車のことを詳しくわかっている、と焦りました。

 しかし、次第に僕には疑問が湧いてきました。そしてやがてそれは、だんだん確信へと変わっていきました。そもそも自分は誰のために仕事をしているのか。車を買ってもらうためです。では、車はどうやって買われるのか。
 打ち合わせで飛び交っていたような専門用語を知っているユーザーは、そもそも広告など見て買わないのではないか、と思ったのです。

 まして、当時の担当車種は、ファミリーカー。車に詳しい人たちにアピールしたいわけでもいのです。
 つまり、僕のような専門用語がよくわからないし、マニアックなことに興味もない人が反応するような広告を作ればいい、ということに気が付いたのでした。だから、むしろ車に詳しい必要なんてないんじゃないか、と。
 結果的に、この視点で作った広告でクライアントからも高い評価を得て、車は大ヒットしました。
 このときわかったのは、僕たちに仕事が頼まれているのは、メーカー発の視点とは違うものが求められていたからではないか、ということでした。クライアントと同じ視点や発想でいいなら、自分たち外部の人間の存在意義などないのです。

<POINT>
打ち合わせポイント(37)「わかったつもり」という罠に気をつける
打ち合わせポイント(38)「何のために、誰のために仕事をしているのか」改めて考えてみる

なるべくたくさんの
「イメージ」を持っていく

佐藤可士和(さとうかしわ)
博報堂を経て「SAMURAI」設立。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブン・ジャパン、今治タオルのブランドクリエイティブディレクション、「カップヌードルミュージアム」「ふじようちえん」のトータルプロデュースなど。毎日デザイン賞、東京ADCグランプリほか多数受賞。慶応義塾大学特別招聘教授、多摩美術大学客員教授。著書にベストセラー『佐藤可士和の超整理術』(日経ビジネス人文庫)他。

 いきなり打ち合わせに臨んでイメージがどんどん出てくることは難しいでしょう。だからこそ、イメージや仮説は、とにかくたくさん持っていくことが大切です。
 先にも書きましたが、いきなり正解は求められないのです。大切なことは、イメージを持ち寄り、その場で出し合うこと。打ち合わせを通じて、正解を作っていけばいいのです。
 だから、ぶつけられるイメージや仮説は、たくさんあったほうがいい。いろんな角度からのイメージが出てきたり、ぶつかったりして、面白いものが生まれていくからです。みんなの反応を見ながら、いろんなイメージを出していくのも、とても有効です。

 逆に、よくないのは、イメージを「これだ」と固めてきてしまうことです。聞く耳を持たず、何か反論されると顔色を変えてしまうようでは、「みんなで作り出す」ことができません。
固めすぎずに、たくさんイメージを持っていく。そうすることで、その場で新たな発想もでき、フレキシブルな対応ができます。みんなで作る打ち合わせができるのです

 僕は打ち合わせでは、誰かのイメージの断片を拾っていったり、極論をぶつけてみたりして、場を揺さぶるようにしています

 「そこ、もうちょっと掘り下げたいですね」
「それ、別のパターン、考えられないですか?」
「まったく逆にCMを打たないというのはどうですか?」

 そんな刺激になるような発言をしながら、次の展開に持っていく。

 これにより、アイデアに結びつけていくのです。実際のところ、すごくいいアイデアは、陳腐なアイデアと紙一重のところにあったりする。そのギリギリのところは、みんなにぶつけてみないと、なかなか見えてこないのです。それこそが、クリエイティブな打ち合わせの大きな醍醐味なのです。

 次回は、打ち合わせの中での対話のポイントをご紹介します。例えば、どんな質問をするとよいのか? 誰とコミュニケーションを取ったらよいのか? そんな具体的なお話しをできればと思います。

<POINT>
打ち合わせポイント(39)ぶつけられるイメージや仮説は、たくさんあったほうがいい
打ち合わせポイント(40)イメージを固めすぎず、反論にも聞く耳を持つ
打ち合わせポイント(41)いいアイデアというのは、陳腐なアイデアと紙一重のところにもある
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佐藤可士和(さとうかしわ) [アートディレクター]

博報堂を経て「SAMURAI」設立。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブン・ジャパン、今治タオルのブランドクリエイティブディレクション、「カップヌードルミュージアム」「ふじようちえん」のトータルプロデュースなど。毎日デザイン賞、東京ADCグランプリほか多数受賞。慶応義塾大学特別招聘教授、多摩美術大学客員教授。著書にベストセラー『佐藤可士和の超整理術』(日経ビジネス人文庫)他。


佐藤可士和の打ち合わせ

 打ち合わせはあまりにも身近で、これまで何の課題ももたれずに、そこかしこの企業で行われてきました。日本を代表するアートディレクター・クリエイティブディレクターである佐藤可士和氏も、その多忙な生活の多くを打ち合わせで費やしてきました。その中で、いかに効果的に打ち合わせをするかが、仕事の肝だと考えるようになったといいます。  拙著「佐藤可士和の打ち合わせ」(ダイヤモンド社)には、その打ち合わせ術が存分に盛り込まれています。今回の連載では、そのエッセンスをお伝えしていきます。  打ち合わせを制する者は仕事を制する! あなたも是非打ち合わせマスターになってください。

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