「非連続な未来」に向けてイノベーションをデザインする
――PwCコンサルティングが考える「戦略的イノベーションデザイン」とはどのようなものでしょうか。
三山 一言で言えば「企業の未来を描く」ための取り組みです。日本企業の多くは、自社の未来に強い懸念を抱いています。PwCが行った「世界CEO意識調査」では、「会社が抱える悩み」という問いに対して、「10年後も自社は存在し続けられるのかどうか、自信がない」という日本企業のCEOからの回答が多数ありました。
これは、テクノロジーの急速な進歩や、社会の急激な変化によって先が読めなくなり、「未来の自分たちはこうあるべきだ」という姿を十分に描き切れていないことが原因です。そうした企業に寄り添い、未来を創るための新しいイノベーションを生み出すお手伝いをしたいと考えました。

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――どのくらいの時間軸で、どんな未来を描き出すのでしょうか。
三山 クライアント企業からのご相談で最も多いのは、「10年後に自分たちがどうあるべきか」を描き出し、そこから逆算して、どのようなイノベーションに挑むべきかを一緒に考えてほしいというものです。これまでのビジネスの延長線上にない「非連続な未来」を描きたいというご要望も多いです。これは、日本の上場企業にPBR(株価純資産倍率)1倍割れの会社が多いことも無関係ではないと思っています。
――それはどういうことでしょうか。
三山 足元の業績は悪くないのに企業価値が上がらないのは、未来に対する市場の期待が低いということです。そのギャップを埋めるために、従来のビジネスの延長線上にない「非連続な未来」を描き、そこにたどり着くためのイノベーションを戦略的にデザインしたいという企業が増えているのです。これがまさに、私たちが考える「戦略的イノベーションデザイン」です。
――伊藤さんは、金融業界向けコンサルティングのスペシャリストとして、金融機関の戦略的イノベーションデザインを支援されているそうですね。
伊藤 金融業界では、低成長や人口減少といった社会構造の変化とともに、預金・貸し出しを中心とする従来型のビジネスモデルや、対面営業を基本とするサービスモデルが曲がり角に差し掛かっており、いかに未来のモデルを構想し、設計するかが重要な経営アジェンダとなっています。

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私が支援している大手銀行は、業態の枠にとらわれず顧客の課題を解決できるソリューションの提供を目指す、というビジョンを経営戦略の核心に据え、イノベーションに動きだしました。具体的には、行内ベンチャーがAIやRPA(Robotic Process Automation)といったテクノロジーの活用で業務を効率化した経験を基に、顧客向けの新たなソリューション提供企業を創設。さらに、高齢化社会に対応するため、介護施設の紹介や治療費の決済支援といったサービスを提供するプラットフォームの構築にも取り組んでいます。
「空想の未来」と「実現可能な未来」から「望ましい未来」を描く
――その銀行がイノベーションに取り組めたのはなぜなのでしょう。
伊藤 この銀行の場合、既存の枠にとらわれず発想を広げたことや、社員の夢や社会課題に対する関心を事業化につなげる仕組みづくりを行ったことが、変革を前に推し進める原動力になっていると思います。未来を見据え、そこから逆算して、未来に至るまでのイノベーションを自らデザインすることが、企業の存続と成長を約束する力となるはずです。
――ただ、「非連続な未来」といっても、SFのようなとっぴな未来では、デザインも難しくなるのではないでしょうか。
三山 可能性の幅を広げるという意味では、枠を取り払ってSFのような発想から始めてみるのもありだと思います。その一方で、テクノロジーや社会がこの先、どう変化していくのかということを論理的に推測し、SF的に思い描いた未来とのギャップを埋めていく作業が欠かせません。
右脳で思い描いた「空想の未来」と、左脳が認識する「実現可能な未来」を頭の中で擦り合わせながら、「望ましい未来」を創り上げていくのです。私たちは、そうした手法に関するノウハウを持っているので、枠にとらわれず、なおかつ実現の可能性が高い未来を描き出すお手伝いができます。
――「望ましい未来」を描いた後は、どうやってそこにたどり着くかを考えることになると思いますが、具体的にはどのようにアプローチするのでしょうか。
三山 いろいろな方法がありますが、一つ面白い例を紹介しましょう。ある企業からの依頼で、2035年に発行される架空の雑誌を作ったことがあります。その企業が35年に取り組んでいる事業について、あたかも現実のような記事を書き、雑誌の形にまとめたものです。事業の関係部署だけに配って読んでもらいました。
雑誌を読んだ人たちは、会社がどんな未来を思い描いているのかを具体的にイメージできます。しかも、発行時期が明示されているので、「35年までに実現するには、いつまでに何をしなければならないのか」というロードマップも具体的に描けるようになります。
縦割り型組織には、戦略的イノベーションデザインが特に効果的
――戦略的イノベーションデザインは、具体的にどのような要素で構成されているのでしょうか。
三山 大きく四つの要素があります。一つ目は「イノベーション駆動型のエンタープライズデザイン」です。イノベーションによって、いかに非連続的な成長戦略を描くか、それによって未来の事業ポートフォリオや事業価値をどうつくり上げていくか、という全体像を設計します。
二つ目は「価値創造に向けたイノベーションデザイン」。一つ目で設計した全体像に沿って、お客さまと伴走しながら、どんなイノベーションを生み出すのかを一緒にデザインしていきます。三つ目は、「ポスト生成AI時代のエンタープライズデザイン」。これは、生成AIに続く、AIエージェント、AGI(汎用型AI)などの最新AI技術を取り入れながら、バックオフィス業務やミドルオフィス業務を変革していくためのデザインです。
最後の四つ目は「AIによる価値創造デザイン」。三つ目は業務変革にフォーカスしたものですが、こちらはAIの活用によっていかにトップラインを高め、事業価値や企業価値を上げていくかに主眼を置いた仕組みやプロセスのデザインです。
――実際に、PwCコンサルティングが戦略的イノベーションデザインを支援している企業は、どのような成果を上げているのでしょうか。
伊藤 先ほど紹介した大手銀行は、銀行という枠にとらわれず顧客の課題を解決できるソリューションの提供を目指す、というビジョンの実現に向けた“ビジョンドリブンのバックキャスティング”に基づき、社内ベンチャー制度を導入しました。
この制度は、社員が自ら新しいビジネスを立ち上げることができるもので、私たちも1社の設立を支援しました。先ほどご紹介した業務効率化のノウハウを外部に提供するソリューション企業です。設立に当たっては、ストラテジストと共に、10年後の未来を起点として「何を大切にするか」「誰に寄り添うか」といったテーマで議論を重ね、ミッション、ビジョン、バリューを策定しました。設立支援だけでなく、その後の業務設計や中期経営計画の策定、実行まで、一貫して伴走支援を行っています。
――伊藤さんはPwCコンサルティングのX-Value & Strategy(クロスバリュー&ストラテジー)チームに所属しているそうですが、これはどのような役割を担っているのでしょうか。
伊藤 クライアント企業と一緒に経営アジェンダを設定し、法人・部門を超えてPwC Japanグループ全体のケイパビリティを組み合わせてチーミングし、戦略を立てるだけでなく、実現まで伴走することをミッションとしたチームです。戦略的イノベーションデザインでは、三山のチームと共に、未来からバックキャストした戦略を描き、その実現のために必要な専門家・実行部隊のチームを素早く組成することができます。
――最後に、今後どんな企業の戦略的イノベーションデザインを支援していこうとしているのか、お考えを聞かせてください。
伊藤 もちろん、あらゆる企業のご相談にお応えしたいと思っています。利害関係を超え、未来を共有できる“仲間”の一人として、私たちにお声掛けいただければ幸いです。
三山 戦略的イノベーションデザインはあらゆる企業に有効ですが、特に、組織が縦割りで、全社一丸となった変革が難しいと感じている企業に効果的です。全社で「望ましい未来」を共有し、各部門がそれぞれの役割に沿ったイノベーションを推進する体制づくりをお手伝いできますので、ぜひご相談ください。
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