手塚治虫が「火の鳥・未来編」で、人類滅亡を描いている。未来の地球では、膨大なデータを処理して的確な判断を下し、間違いを決して犯すことがない巨大コンピューターが国家の意思決定を行う。人類は、ただコンピューターに従うしかない存在だ。だが、ある時コンピューター同士が対立する。お互いに、「絶対に判断を間違わない」ため、妥協することができない。遂に核戦争に至り、人類は滅亡する。子どもの頃読んだこの話は、単なる「空想」だった。だが、AI(人工知能)の開発が進み、遠くない未来の「現実」となってきている。
AIが発達する未来は、「ロボットが働いて、人間は働かなくてよくなる」という、バラ色の社会として語られがちだ。しかし、英・オックスフォード大学が13年に発表した論文では、米国の702の職業別に機械化される確率を示し、「今後10~20年で47%の仕事が機械に取って代わられる高いリスクがある」と結論している。未来には、大量失業者の発生、格差の超拡大によって、経済政策、産業政策、社会保障・福祉政策、教育政策など、すべての政策について、従来の常識が通用しない社会が出現する懸念がある。
これまで、AIについては「理系の領域」だとして、社会科学者は議論から蚊帳の外に置かれてきた。しかし、「人間の仕事の半分がなくなる」という衝撃の未来をどうするかは、我々社会科学者が考えるべき仕事のはずである。
AIの発達で人間の限界と機械の優位が明らかに
「人間にしかできない仕事」がなくなっていく
従来、「技術的進歩」とは身体を使う「手作業の機械化」を意味してきた。しかし、現代の技術的進歩は人間の領域とされてきた「認知能力を必要とする幅広い仕事の機械化」にも及んできている。これは端的にいえば、人間にしかできないと思われていた仕事も、ロボットなどの機械に取って代わられるということだ。
すさまじい勢いでコンピューターの技術革新が進んでいる。それを可能にしているのは、脳科学の研究成果の応用である。脳を構成する無数のニューロン(神経細胞)のネットワークを工学的に再現したAIが開発されているのだ。コンピューターは「人間があらかじめプログラミングしたことしかできない」単なる機械から、人間の脳のように「なにかを学んで成長する能力」を備えるものに進化しつつある。その中心となる技術は、「ビッグデータ」による情報分析と「センサー技術」による認識能力を組み合わせである。