戦略なき空港建設が日本社会に様々な軋みを生んでいる。本来、国家的なインフラであるべき空港が、地域のハコモノ感覚で造られてしまい、その数98にのぼる。質ではなく量を追求した整備により、ハブ空港の不在や需要なき地方空港の林立、そして、狭いエリア内での乱立という負の現象が広がっている。

 地域エゴのぶつかり合いで過剰整備となっている代表事例が、大阪、関西国際、神戸の関西3空港だ。互いに足を引っ張り合い、地盤沈下する悲劇を生んでいる。この三つ巴の関係にどう終止符を打つか。国や地域で議論が重ねられているが、いがみ合いはエスカレートする一方だ。最大の焦点は、伊丹(大阪)空港の存廃である。

 関西3空港のあり方についての議論をリードするのは、大阪府の橋下徹知事だ。「関空・伊丹プロジェクト」なる将来戦略を昨年とりまとめ、地域主導によるストックの組み換えを主張、伊丹空港の将来的な廃止を明確に掲げた。

大阪府・橋本知事構想では
リニアが来れば伊丹は廃港

 橋下戦略のポイントは2点。ひとつは、JR東海が計画中のリニア中央新幹線と3空港問題をセットで考えるという点だ。東京~大阪間のリニア開業と同時に伊丹廃港をという。需要の4割を占める羽田便がリニア開業によって消失し、伊丹空港の存在意義が自然に低下するとみるからだ。2点目は、空港跡地の利活用を地域主導で行い、運用益と売却益を関空の財務改善と関空リニアの整備に充てる戦略だ。即時ではなく、中長期の地域戦略として伊丹空港の廃止を掲げたのだが、それでも、これまでタブー視されてきた議論に踏み込んだ。

 これに猛反発したのが、伊丹空港の地元の井戸敏三兵庫県知事である。3空港を一元管理して運用を改善すれば、地域全体の需要は増えると、持論を展開。伊丹存続を強く主張した。そして、伊丹廃止によって関空の需要を高めようというのは、「負け犬の論理」だと橋下知事を一蹴した。両知事の間で激しいバトルが展開されるようになり、争いの渦は広がっていった。