メリットは輸出者と消費者に
GDP増は累積3兆円“ではない”

TPPのメリットとデメリットをあらためて整理する紆余曲折の末ようやく大筋合意。環太平洋圏に巨大自由貿易圏が出現する

 やっと環太平洋経済連携協定(TPP)が大筋合意になった。TPPで日本のメリットとデメリットはどうなるのだろう。

 正直に言えば、これまでの政府間交渉の結果は国民に開示されていないので、政府からのインサイダー情報がない限り、正確な論評は現時点で不可能である。したがって、筆者がTPP交渉参加を押してきた理由が現時点で変わっているかどうかをチェックするにとどめたい。

 メリットは自由貿易の恩恵だ。これは経済学の歴史200年間で最も確実な理論だ。ただ、自由貿易でメリットを受けるのは輸出者、そして消費者だ。この点で、今回の大筋合意に対しても賛同意見が多い。一方で、デメリットになるのが輸入品と競合する国内生産者だ。自由貿易の恩恵というのは、メリットがデメリットを上回ることを言う。

 このロジックは、2011年2月11日の本コラム(「TPPで農業を自由化すると日本の農業は本当に壊滅するか」)に書いてある。そこで示した通り、一定の経過期間を設ければ、農業が壊滅することも避けられる。

 さらに、自由貿易のメリットの具体的な計算について、内閣府の試算では「概ね10年間で実質GDP3兆円増」となっている。TPP反対者の多くは、この正確な意味を理解せずに、「10年間累積で3兆円」と思い込んでいる。有名な経済評論家も、10年間累積で3兆円なので、年間3000億円にすぎないと反対していた。

 この種の計算は古くから行われてきており、先の本コラムに書いてあるような経済学の比較静学を使う。TPP前の状態と、TPPを実施して輸入量が増え国内生産者が減少するという調整を経た後の状態を、比較するわけだ。こうした計算は、国際機関でも行われている。そこではいろいろな国からの参加者があるので、どこの国も極端に有利にならないように、比較的公正な計算となっている。内閣府の試算もそれを参考にしている。