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加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

中国はTPPの大筋合意をどれくらい警戒しているのか?

加藤嘉一
【第62回】 2015年10月13日
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TPP大筋合意のオバマ表明で
予感した中国世論の荒れ模様

オバマ米大統領はTPPの大筋合意を受けて中国を牽制する声明を発表。実際に中国は、TPPをどれくらい警戒しているのか

 10月5日(米東部時間)、日本や米国が主導し、他の10ヵ国とともに厳しい交渉を進めてきた環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が大筋合意に達した。米アトランタで行われていたその最終交渉の模様を、私はワシントンDCでウォッチしていた。

 同日、オバマ大統領がTPP協定交渉基本合意を受けて声明を発表した。「我が国の経済を成長させ、中産階級を強くするために、大統領としての毎日の時間を費やし、闘ってきた」と冒頭で切り出した同大統領は、「米国の95%以上の潜在的な顧客が海外に居る状況下において、中国のような国家にグローバル経済のルールを決めさせてはならない。我々こそがそれらのルールを書くのだ。労働者と生態環境を守るためのハイスタンダードを設定しつつ、米国の製品にマーケットを開かせるのだ」と米国のTPPへの意思とスタンスを表明した(米ホワイトハウス公式サイト参照)。

 この声明を読みながら、咄嗟に「ああ、中国の対米世論は荒れるだろうなあ」という想像が、私の脳裏をよぎった。

 「TPPって何? どなたか詳しい人はいる? 中国はどうすればいいのか?」

 「これは米国が中国を封じ込め、アジア太平洋地域から締め出すための陰謀だ」

 「習近平主席が米国訪問を終えた直後の合意。中国への見せかけであり、挑発だ」

 同日、最近中国国内で流行しているソーシャルネットワークサービス“微信”(We Chat)で私が属しているいくつかの“群”(グループ)を覗き込むと、この手のコメントが氾濫していた。匿名の掲示板ではない。大学教授やジャーナリストをはじめとした知識人がクローズドな空間で、実名で発している言葉である。

 フォローさえすれば、対象である言論が誰でも閲覧できる中国版ツイッター“微博”とは異なり、微信では互いに承認したユーザー同士しかその言論に触れることができない。最近の中国におけるソーシャルコミュニケーションにおいて、人々の関心とコミットメントはあからさまに、微博から微信にシフトしている。

 「地上の言論空間が統制されている中国において、現在、微信の“群”こそが一種の議会であり、最も自由で活発な議論を交わすことができる舞台だ」

 知り合いの中国人投資家はこう語る。この人物が属している群には、約30名が“在籍”しており、そこには、中国を代表するジャーナリスト、学者、企業家、そして政府のスポークスマンや閣僚級高官などが含まれる。「私はこの群での交流に1日4~5時間費やしている。頻繁に発言しないと、群の責任者からキックアウトされるルールになっている」(同投資家)のだと言う。

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加藤嘉一 

1984年生まれ。静岡県函南町出身。山梨学院大学附属高等学校卒業後、2003年、北京大学へ留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。北京大学研究員、復旦大学新聞学院講座学者、慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、2012年8月に渡米。ハーバード大学フェロー(2012~2014年)、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員(2014〜2015年)を務めたのち、現在は北京を拠点に研究・発信を続ける。米『ニューヨーク・タイムズ』中国語版コラムニスト。日本語での単著に、『中国民主化研究』『われ日本海の橋とならん』(以上、ダイヤモンド社)、『たった独りの外交録』(晶文社)、『脱・中国論』(日経BP社)などがある。

 


加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

21世紀最大の“謎”ともいえる中国の台頭。そして、そこに内包される民主化とは――。本連載では、私たちが陥りがちな中国の民主化に対して抱く“希望的観測”や“制度的優越感”を可能な限り排除し、「そもそも中国が民主化するとはどういうことなのか?」という根本的難題、或いは定義の部分に向き合うために、不可欠だと思われるパズルのピースを提示していく。また、中国・中国人が“いま”から“これから”へと自らを運営していくうえで向き合わざるを得ないであろうリスク、克服しなければならないであろう課題、乗り越えなければならないであろう歴史観などを検証していく。さらに、最近本格的に発足した習近平・李克強政権の行方や、中国共産党の在り方そのものにも光を当てていく。なお、本連載は中国が民主化することを前提に進められるものでもなければ、民主化へ向けたロードマップを具体的に提示するものではない。

「加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ」

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