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いまこそ読みたい! ダイヤモンド社100年100冊
【第89回】 2015年10月15日
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原英次郎

国家、テロ、戦争はどう変わるか
つながった世界がもたらすもの
『第五の権力――Googleには見えている未来』

日本国内では、時おり犯罪グループが裏の求人サイトで仲間を募っていたと報道されて話題となっていますが、世界はもっとダイナミックです。2010~2012年に起こった「アラブの春」では、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で人々がつながり、革命が次々に伝播していったと言われています。中東でイスラム帝国の樹立を目指す過激派組織IS(イスラム国)も、インターネットを駆使し、世界を威嚇すると同時に、世界中の若者をリクルートしています。

国家、革命、テロリズム……
多岐にわたって未来を予測

エリック・シュミット、ジャレッド・コーエン著、櫻井祐子訳『第五の権力――Googleには見えている未来』 2014年2月刊。Google元CEOによる処女作として、大変話題になった書の翻訳です。

 「だれもいつでもどこでもつながっている世界」は、一体どうなるのか。それを考察したのが今回取り上げる『第五の権力』です。原題は“THE NEW DIGITAL AGE”ですが、邦題の方が本書の問題意識を表しているようにも思えます。インターネットを活用し世界の人々がつながることによって、パワーシフトが起こる。かつてメディアが「第四の権力」と呼ばれたことになぞらえて、著者たちはこれを「第五の権力」と呼んでいます。このパワーシフトは、世界をよりよいものにするのでしょうか、それとも邪悪な世界が広がるのでしょうか。

 著者のエリック・シュミットは、いわずと知れた世界最大級のネット企業グーグルの会長、共著者のジャレット・コーエンは外交政策と国家安全保障の専門家です。ビッグピクチャーを描くことがあまり得意ではない国に住む評者にとって、驚くべきはその問題設定のスケールの大きさ。「アイデンティティ、報道、プライバシー」「国家」「革命」「テロリズム」「紛争と戦争」「復興」と、われわれが居住する世界と、その枠組みを変化させかねない要素を取り上げ、正面から考察しています。

 もう1つの特徴は、つながることによるブライトサイド、ダークサイドの両面を取り上げていることにあります。いくつか例を見てみましょう。第5章「テロリズムの未来」では、「サイバー攻撃では発信源を特定するのが困難きわまりないため、だれが犯行を認めようと、攻撃された側は適切な対応をとることができないのだ」(256ページ)と語る一方、「この種の『ビッグデータ』を活用した捜査は、以前は不可能だったが、いまでは簡単に行えるようになっている……私たちのオフライン、オンラインでの活動……に関する情報さえあれば、情報処理能力のあるコンピュータシステムは、私たちの身元を十分特定することができるのだ」(266ページ)とも言います。

 そこでだれもが予想するように、プライバシー保護とセキュリティのせめぎ合いが、これから一層激しくなってきます。「治安を深刻に脅かすような事件がひとたび起これば、政府はあっけなく一線を越えてしまう……監視プラットフォームを導入する政府は、(法律や法的判決によって)課せられた制限を、いつか必ず破るだろう」(274ページ)と予想しています。

 さらに衝撃的なシーンは、ロボット兵器を描いた1こま。ロボットや無人機に代表される無人兵器が、インターネット上の情報とつながれば、誤射・誤爆が減り、無用な人的被害が減ると予想される一方、戦争を行うことへのハードルは低くなるかもしれません。加えて、ロボットは本当に人間の兵士にとって代われるのだろうかと疑問を呈しています。「たとえば武装した地上ロボットと、反乱集団によって送りこまれたとおぼしき、スプレー缶を持った6歳児がにらみ合っているとしよう。ロボットは自律的に、または人間の指示で、丸腰の子どもを撃つだろう」(335ページ)。スプレー缶の絵の具が、ロボットの目である高性能のカメラに吹き付けられると、ロボットは無力になるからです。

結局のところ「人間次第」
著者の背景にある米国特有の楽観主義

 著者たちによれば、現下のデジタル革命は、また始まったばかり。だからこそ、断定的な未来予想図を描くことを避け、明るい側面と暗黒面の両面を描いて見せています。

 それでも、基本的には著者たちの未来に対する見通しは楽観的です。根底には「技術は無限の可能性を秘めているが、それがよいことに使われるか、悪いことに使われるかは、まったくもって人間次第だ」(16ページ)という認識があります。つまり、著者たちの意識の背景には、米国的なリアリズム、合理主義、必ず解決の道はあるという進歩主義があるように思えます(ただ、この1文は米国における銃規制反対論者の主張に似ていると受け取るのは、飛躍し過ぎでしょうか)。

 たとえば、戦争やテロはなくなることはあり得ないという前提で、テクノロジー進化が、それにいかなる影響と変化をもたらすかを考察しています。そこには米国が世界で最もあこがれを抱かせる国であると同時に、なぜ最も憎悪の対象になるのかという問題意識は希薄です。仮想世界と現実世界が複雑に影響し合う過渡期の先にあるルールもまた、米国的価値観を基に築かれるものという暗黙の前提があるように思えてなりません。その意味で、未曾有のテクノロジーの進化が世界に何をもたらそうとしているか、と同時に、米国の新たなエリート層の問題の捉え方を知るためにも、本書は示唆に富んでいます。

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