1976年の創業以来34期連続の増収増益ながら、非上場を貫き、警備員以外は皆正社員で、離職率はわずか数パーセント。そんな米国企業らしからぬソフトウエア企業が米東南部のノースカロライナ州に存在する。「フォーチュン」誌が毎年発表する「最も働きがいのある会社ベスト100」の2010年版でグーグルなど並み居る強豪を退けて1位となったSASインスティチュートがそれだ。手本となる企業もなければ、ウォール街に耳を傾ける必要もないと断言するジム・グッドナイトCEOに、そのユニークな経営論を聞いた。
(聞き手/ジャーナリスト、瀧口範子)

独占インタビュー ジム・グッドナイト<br />SASインスティチュートCEO<br />「34期連続増収増益でもウォール街に<br />背を向け株式非上場を貫く訳を語ろう」ジム・グッドナイト(Jim Goodnight)
1976年に米ノースカロライナ州立大学の仲間らともに、統計解析ソフトウェア開発企業SASインスティチュートを設立。従業員1万人超、売上高23億ドル強(2009年度)の大企業に育て上げた。2004年にはハーバードビジネススクールにより「20世紀で最も偉大なビジネスリーダー」の一人に選ばれている。

―働きがいのある企業と評価される理由をどう自己分析するか。

 一義的には、社員一人ひとりを「会社に貢献する人物」として常に尊重して扱ってきたからだろう。当社の場合、企業キャンパス内に整備した医療施設やレクリエーション施設、保育所といった福利厚生施設に注目が集まることが多いが、それらがすべてではない。

 一例を挙げれば、勤務時間は原則自由だ。1日7時間仕事をするならば、10時に出社しても、2時間ランチを取っても、食後にジムに行ってもよい。社員を信じることは経営にとって非常に重要なことだ。会社が社員を信じれば、社員も会社に忠実になる。信頼とは本来双方向的なものだ。

―経済危機を受けて、人員削減はしなかったのか。

 私は2009年1月に社員に対して「今年は誰一人としてレイオフしない」と宣言した。多くの企業が雇用削減に動くなか、うちの社員には失業の心配をせずに仕事に没頭してもらいたかったからだ。

 むろん賃金は据え置き、新規雇用は凍結し、コストも最大限カットするように言い渡した。ただ、その結果、2009年の売り上げは2.2%伸びた。一方、コストは0.7%の微増にとどまった。2008年よりもおカネを儲けることができたのだ。

―企業が人員削減を業績回復の手段とすることをどう考えるか。

 米国の上場企業の多くは結局、CEOが自分の欲のために社員に犠牲を強いている。利益を上げ続けるために雇用を減らし、株価を上げようとする。それは、ウォール街の目を気にしているからだ。

 確かに、人員を削減すれば、株価が上がったりするから不思議だ。これには、本当に腹が立つ。だが、ウォール街は世界経済を崩壊させたばかりだ。自分たちの金融機関もまともに経営できないのに、なぜ他の企業のことがわかるのか。はっきりいって、ウォール街の人間の言うことに耳を傾ける必要はない。