環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意を受け、テレビのバラエティー番組などでは黒船脅威論のごとく、「医療費が高騰する!」「混合診療が解禁される」といった話がまことしやかに語られているようだ。
だが、11月5日に外務省が発表した「TPP協定の全章概要」を読むかぎり、その心配はないように思う。医療分野で直接言及されているのは医薬品の特許期間だが、妥結内容は日本の国内制度と乖離するものではなく、この点での影響はない。
アメリカの通商代表部(USTR)が毎年発表する「外国貿易障壁報告書」を見ても、2012年以降はアメリカの要求は医薬品や医療機器の算定ルール(新薬創出加算の恒久化)に絞られてきている。
薬価の高止まりは健康保険財政にとっての不安材料ではあるが、そのことと混合診療の全面解禁の関係性は薄い。「TPPで日本の医療が崩壊する」という地獄のシナリオが現実のものとなる可能性は極めて低いといえるだろう。
それよりも今問題にすべきは、本来は国民生活を守るべき日本の財務省からジワジワと医療給付を縮小する圧力が働いていることだ。
今年6月に発表された「財政健全化計画等に関する建議」には、健康保険の理念を損なうとして過去に否定された「受診時定額負担・免責制の導入」が、ちゃっかりと復活しているのだ(PDF)。
2011年に猛烈な反発で消えた
受診時定額負担の蒸し返し
現在、病院や診療所の窓口で負担するのは、年齢や所得に応じてかかった医療費の1~3割。定率の負担をするだけでよい。財務省が提案する受診時定額負担や免責制は、この定率負担に加えて、医療機関を受診する人から一定額を徴収しようというものだ。
受診時定額負担は、医療機関を受診するごとに年齢や所得に関係なく、すべての患者から1回につき100円などの定額を徴収することが想定されている。免責制は、医療機関を受診しても500円~1000円などの一定額までは健康保険を適用せず、それを超えた分が健康保険の対象になる。
このように医療の財源確保のために、患者から定額の負担を徴収しようという動きは初めてではない。