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経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層

1億総活躍より年功賃金回復を目指す
「豊かな社会」の処方箋

熊野英生・第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト

熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト]
【第192回】 2015年11月25日
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シニア層や女性が働き易い環境をつくることだけで、本当に「豊かな社会」は実現できるのか

 新・三本の矢が目指すものは、「1億総活躍社会」だという。このフレーズを最初に聞いた瞬間、直感したのは“社会保障や税控除をこれから縮小せざるを得ないから、全員が働きましょう”という暗喩ではないかという印象を持った。公的年金の支給開始を65歳からさらに引き上げ、配偶者控除の廃止、という政策メニューが脳裏をよぎった。

 さすがに、現時点で安倍首相が表立ってそんな内容を公言しているわけではない。「子育て支援」や「安心につながる社会保障」といった新しい矢の内容は、先入観とは違って社会保障の充実を指している。

 ただし、それで安心するのは早計だろう。子育て支援は、働く女性が仕事と子育てを両立するための保育・子育てサービスの拡充である。安心につながる社会保障の例示としては、介護離職ゼロが挙げられている。親族の介護のために仕事を辞めなくてもよいようにサポートするのが、介護離職ゼロの意味である。ともに、女性やシニア層が労働参加できる環境づくりのことを「1億総活躍」と言っている。

女性やシニア層の労働参加で
「豊かな社会」は本当に実現可能か?

 筆者が問いたいのは、女性やシニア層が積極的に労働参加する未来によって、本当に「豊かな社会」が成し遂げられるのであろうかという点である。すでに明らかなのは、社会保障制度は守備範囲を狭めて行かざるを得ないという未来図である。消費税率と社会保険料率を大幅に引き上げて、制度の現状維持を目指すシナリオは、政治選択において現実味がない。早晩、社会保障サービスは手薄になって行かざるを得ない。そこを自助努力で補った方がよいと考えて、安倍政権は労働参加を奨励するのだろう。

 その一方、社会保障がなぜ手薄だと感じられるのかという部分を、もっと根源的に考える必要がある。子育てや介護の負担は、これまでは家族内で負担してきた。その重みがゆえに、家族の負担を保育施設や介護施設などの公的サポートで軽減したいと多くの人が感じている。

 もっとも、誰もが知っているのは、サービスを積極的に利用すると、経済負担が大きくなることである。問題は、女性やシニア層が積極的に働いて、家族の役割をアウトソースすることが十分に可能かどうかである。

 筆者は、限界があると考える。女性やシニア層の多くは、非正規雇用を選択して就労せざるを得ないことが限界の理由である。もちろん、女性やシニア層が、正規雇用で就労できて、もっと高い給与所得を得られればよいが、正社員を選択すると仕事の時間を優先せざるを得なくなり、家族の役割と仕事の両立が困難に思える。結果的に、非正規雇用を選択するということになりがちである。

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熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト]

くまの・ひでお/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト。 山口県出身。1990年横浜国立大学経済学部卒。90年日本銀行入行。2000年より第一生命経済研究所に勤務。主な著書に『バブルは別の顔をしてやってくる』(日本経済新聞出版社)など。


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