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経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層

色あせる「新・三本の矢」
自分ならばこう組み直す

――熊野英生・第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト

熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト]
【第186回】 2015年9月30日
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先日、安倍首相が発表した「新・三本の矢」は、ヒットするだろうか。新しい三本の矢を吟味して、その建て直し案を検討したい

 映画の世界で大ヒット映画の続編がつくられて、成功する事例はごく稀である。同じ監督、同じスタッフが製作しても、時勢を味方につけなければ、成功はしない。安倍首相も、アベノミクスというヒット作に恵まれて、9月24日に記者会見を開き、続編の製作発表を行った。もっとも、筆者はその予告編を見せられただけで、かなり食傷気味になってしまっている。本稿では、新しい三本の矢を吟味して、その建て直し案を検討する。

現在の1.2倍に
名目600兆円は高望み

 新しい三本の矢とは、(1)強い経済、(2)子育て支援、(3)社会保障の3つである。それぞれ目標として、名目GDP600兆円を目指す、出生率1.8人を目指す、50年後に人口1億人を維持する、介護離職ゼロを目指す、などの数値目標が掲げられている。

 個別に見ると、名目GDP600兆円は、現在の500兆円を1.2倍にする目標である。首相の任期中の2018年度を期限にするのならば、毎年平均5.2%成長率が必要である(図表1参照)。2020年度を期限にすれば、3.4%成長を必要とする。私たちの給与水準が3年後、あるいは5年後に2割増しになるのと同じことだと表現すれば、現実味が薄いことがわかる。何よりも、どうやって名目GDPを現在よりも100兆円を増やすのかという具体策を示してほしい。からくりを示さずに、名目所得を劇的に増やすと決意表明しても、熱意は正しく伝わらない。

 少し驚くのは、「強い経済」に関連して財政再建の必要性がクローズアップされなかったことだ。先進国中で最も巨大な政府債務の負担を抱えているわが国が、財政問題を抜きにして、「戦後最大の国民生活の豊かさ」は語れないはずだ。日本の津々浦々に高速鉄道を張り巡らしても、それが政府債務を累増させてしまっては、正当化しにくい。

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熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト]

くまの・ひでお/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト。 山口県出身。1990年横浜国立大学経済学部卒。90年日本銀行入行。2000年より第一生命経済研究所に勤務。主な著書に『バブルは別の顔をしてやってくる』(日本経済新聞出版社)など。


経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層

リーマンショック後の大不況から立ち直りつつあった日本経済の行く手には、再び暗雲が立ち込めている。留まることを知らない円高やデフレによる「景気腰折れ不安」など、市場に溢れるトピックには、悲観的なものが多い。しかし、そんなときだからこそ、政府や企業は、巷に溢れる情報の裏側にある「真実」を知り、戦略を立てていくことが必要だ。経済分析の第一人者である熊野英生、高田創、森田京平(50音順)の4人が、独自の視点から市場トピックの深層を斬る。

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