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国民不在の意思決定過程に見る
28年度税制改正の課題(上)

田中秀明・明治大学公共政策大学院教授

田中秀明 [明治大学公共政策大学院教授]
2015年12月11日
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去る12月10日、与党の28年度税制改正大綱が決定された。例年の恒例行事だが、その意思決定過程は透明性が高いとは言えない

 去る12月10日、消費税の軽減税率の対象範囲を除いて、与党の28年度税制改正大綱が決定された。例年の恒例行事である。

 日本では、税制改正は与党と政府の税制調査会の2つに別れて検討されている。なかんずく、与党税調は、民主党政権期間を除けば、税制改正をほぼ支配してきた。税は与党が決めるものとされているが、その意思決定過程は利害の調整の場になっており、透明性が高いとは言えない。他方、政府税調は中長期的な課題を検討する場とされており、税制改正への影響力は乏しい。

 いずれにせよ、税制改正が国民の目から離れたところで行われているとの認識から、我々は今年初めに「民間税調」を立ち上げて、税制の問題を検討してきた。本稿では、最初に、与党が決定した28年度税制の問題を分析した後、現在の税制改正過程そのものの問題を整理する。そして、我が国が直面している諸問題を解決するための民間税調の税制改革案(12月8日発表)を紹介する。

28年度与党税制改正大綱は
選挙対策

 今般の税制改正を一言でいうと、来年夏の参議院選挙で国民の投票を買うため消費税の軽減税率と法人税率の引き下げを行う一方、配偶者控除の見直しなど意見が対立する懸案事項は検討を行わず、今後に先送りするものである。 

 今回の税制改正で最も大きな問題は、消費税の軽減税率である。自民党と公明党は、軽減税率導入を選挙で公約したことを前提に、その対象範囲と財源を巡って対立していたが、結局、公明党の要求(生鮮食品に加えて加工食品も対象とする)をほぼ呑む形で決着しそうだ。自民党が安全保障関係の立法で公明党に借りがあるので、今回は公明党に譲ったということだが、合理性もなく、税という国家の礎をないがしろにする政治決着だ。

 そもそも軽減税率は真の低所得者対策にならないので、導入を見送るべきであった。消費税は、確かに逆進的(高所得者ほど所得に対する税負担の割合は低い)であり、何らかの対策は必要であるが、軽減税率は最も非効率かつ非効果的な対策である。軽減税率により、低所得者の消費税負担は減る一方で、高所得者はより多く消費することから、軽減の総額は大きくなる。

 つまり、高所得者ほど恩恵を受けるので、低所得者は相対的には損するといえる。軽減税率により物品やサービス購入時の痛税感は緩和されるというが、10%から2%引き下げて、どのくらいの効果があるだろうか。欧州諸国でも軽減税率が導入されているが、対象品目の線引きで裁判になるなど多くの問題が出ており、専門家は日本に対して軽減税率は導入すべきではないと助言している。

 世論調査では、多くの国民が軽減税率に賛成しているが、税金が安くなるのであれば当たり前の回答である。もし、軽減税率の問題を充分理解した上での質問であれば、回答も異なっていたであろう。

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田中秀明[明治大学公共政策大学院教授]

たなか・ひであき
1960年生まれ。1985年、東京工業大学大学院修了(工学修士)後、大蔵省(現財務省)入省。内閣府、外務省、オーストラリア国立大学、一橋大学などを経て、2012年4月から現職。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス修士、政策研究大学院大学博士。専門は予算・会計制度、公共政策・社会保障政策。著書に『財政規律と予算制度改革』(2011年・日本評論社)、『日本の財政』(2013年・中公新書)


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