『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などの大ヒットを生み出したのち、大手出版社を辞め、作家エージェントを起業した編集者・佐渡島庸平氏。彼が大切にしているのは「仮説を立てる」ということだ。
本連載では早くも4刷と好評を博している佐渡島庸平氏初の著書『ぼくらの仮説が世界をつくる』のエッセンスを紹介していく。
自分が宇宙人だったらどう考えるだろう?
大胆な仮説を立てるためには、あらゆる常識や、これまでの慣習というものに囚われず、自由に思考することが大切です。
ぼくはものごとの本質を考えるときに「自分が宇宙人だったら、どういうふうに考えるだろう」と思考しています。
ぼくは、中学生時代を南アフリカ共和国で過ごしました。高校生になって日本に戻ってきたとき、かなり客観的に、日本の習慣などを眺め、思考することができました。その感覚を意識的にするために、あえて極端に「宇宙人視点」という考え方をして、客観的な視点を持とうとしているのです。
たとえば「ステルスマーケティング」は定期的に問題になってきました。いわゆる「ステマ問題」です。
タレントが自分のブログで「お気に入りの商品」を紹介したのだけれど、実はそれが企業からお金をもらっている広告だった、という問題です。事実が発覚すると批判が集中し、謝罪をする。そういう場面を覚えている方も多いと思います。
一方でテレビをつけると、有名なサッカー選手がひげ剃り用のカミソリのCMに出て「切れ味バツグン!」などと言っています。でも、この場合は「サッカー選手は、お金をもらってカミソリを絶賛していてひどい!」などとは誰も言いません。最近は「CM上の演出です」と小さく書かれているものもありますが、サッカー選手がテレビに映った際に「CMなのでカミソリを褒めています」などといったテロップが出ることはありません。
ブログの場合だと大バッシングにあうのに、テレビCMであれば問題ない。この二つの差を、もし「宇宙人」が見たら、差に気付けるでしょうか? どちらも同じ広告なのに、なぜ一方だけが非難されるのか――。
ステマ問題は「ブログでは本心しか語られていない」という思い込みが読者側にあったからこそ問題になりました。「本心しか書かれていないはずのブログで広告なんて!」と、読者が騙されたと思い、怒ったのです。
しかし、前提情報のない宇宙人が見たらテレビもブログも両方とも一緒です。
このように「宇宙人視点」で思考してみると、本質が少しずつ見えてきます。そして、社会がいかに「何となくのルール」で回っているかがわかります。
「ブログには本心しか書いてはいけない」などという明確なルールがあるわけではない。でも、ステマ問題を見ると多くの人のあいだで「暗黙の(もしくは業界の)ルール」ができていて、そのルールを破っていることが問題になっているのです。
出版社の強みは「流通」である
ぼくは独立してから、いろいろな会社のビジネスモデルを調べましたが、そのときもできるだけ「宇宙人視点」で考えようとしました。
宇宙人には、レッテルやイメージという固定観念もなければ、業種という概念もありません。よって、純粋なビジネスモデル=骨格だけが浮かび上がってくるのです。
たとえば、一般的に「出版社」というものは、「本や雑誌を作っている会社」と思われています。もちろん間違いではないのですが、それが出版社の強みなのでしょうか? 出版社というイメージに引っ張られないで「どういう仕組みになっているか」に注目してみる。すると、その本質が見えてきます。出版社だけの特徴や強みはどこにあり、どのように利益を出しているのでしょうか?
実は、出版社の強みは「流通」にあります。
出版の世界には、出版社以外に、本を販売する「書店」と、金融や流通を真ん中で仕切っている「取次会社」という存在があります。この出版のシステムがあるから、全国一律に本というものを書店の店頭に届けることができるのです。そして、本というモノをこのシステムに乗せられるのは出版社しかありません。
本や雑誌を作ることは、印刷機とパソコンがあれば、今や個人でもできることです。しかし、それを全国の書店の店頭に並べることは今のところ出版社しかできません。全国に配本して店舗で売るというシステムがあるからこそ、雑誌に広告を入れるなどの収益も得られる。書店という読者に繋がるためのチャンネルを独占的に押さえているところに、大手出版社の強みがあります。
同時に、そのチャンネルが弱くなってきているから、出版不況が起きている。出版社のものづくりの能力に大きな変化が起きているわけではないというのが、ぼくの見立てです。
そう考えれば、出版社が収益を上げるために取り組むべきことは、コンテンツの質の向上というよりも、流通の再構築でしょう。電子書籍も含めて、どのような新しい流通の形を作るのかを考えていかなければいけません。
同じく新聞社も最強の流通業者であり、宅配業者です。1000万ほどの家に毎日朝と夕方に紙の束を届けることができるという「最強の配達網」を押さえていて、さらに地域ごとの対応ができているため、新聞に広告を出したり、チラシを入れたいと思う企業があるのです。
新聞社の強みは記者の質の高さやジャーナリズム精神だと思いがちですが、ビジネス面の強みはそこではありません。
常識や表面的なものに囚われず「まっさらな頭」で考えるために、ぼくは年に2回以上は、どんなに忙しくても海外に行くことにしています。どちらにしろ、コルクは海外展開をしているため、海外に行く必要があるのですが、そのたびに常識を疑う機会ができます。違う文化圏に身を置いてみることにより「宇宙人スイッチ」が入りますし、日本を一歩引いた視点で見ることができるのです。
※明日に続きます