人々をスポーツ観戦に駆り立てるのは、好きな選手やチームの勝利を願い応援する楽しみとは別に、通常なら起こり得ない事態を目撃して感動や興奮を味わいたいという期待感がある。

 昨年のラグビーW杯で強豪・南アフリカを破った日本代表が好例だ。大差をつけられて負けると誰もが思っていたのに互角に渡り合い、最後のワンプレーで逆転勝ちしてしまった。地元英国のファンが我が事のように狂喜乱舞したのは、南アと日本の実力差を熟知しており、その勝利がいかにすごいことか理解していたからだ。勝ち目のなさそうな強敵に対しても決して臆さず最後まで勝利を信じて戦い、それを実現させた日本代表選手たちの敢闘精神に心から感動したのである。

 同じイングランドのプロサッカーリーグ1部、プレミアリーグでも同様のことが起こるのではないかと今、盛り上がっている。

実質4大クラブの優勝争いに
突如割って入ったレスターシティ

 残留争いに巻き込まれるだろうと思われていた弱小クラブ・レスターシティ(以下レスター)が快進撃。リーグ戦の3分の2を終えた現在も首位にいて、優勝する可能性が現実味を帯びてきたからだ。

 イングランドのプロサッカーリーグは130年近い歴史を持つが、放映権料の分配をめぐるゴタゴタなどから、1992年にプレミアリーグ(20クラブ)を頂点とし、その下にフットボール・チャンピオンシップ=2部(24クラブ)、フットボール・リーグ1=3部(24クラブ)とカテゴリー分けされた現在のリーグに改編された。

 改編以降の23年間でリーグ制覇したことがあるのは、マンチェスター・ユナイテッド(以下マンU)、ブラックバーン、アーセナル、チェルシー、マンチェスター・シティ(以下マンC)の5クラブだけ(優勝回数はマンU=13回、チェルシー=4回、アーセナル=3回、マンC=2回、ブラックバーン=1回)。このうちブラックバーンは現在2部に落ちているため、実力と人気を兼ね備え財政的にも潤っている4クラブが優勝争いをする状況が続いてきた。

 この4つのビッグクラブに比べると、レスターの成績ははるかに見劣りする。1990年代は10位前後で踏ん張っていた時期もあるが、02~03年には2部に落ち、07~08年には3部に落ちた。1年で2部に再昇格したものの、パッとした成績は残せず、経営難に陥った。その危機を救ったのはタイ人実業家のヴィチャイ・スリヴァッダナプラ氏。経営権を買い取っただけでなく、豊富な資金を投入して強化に努め、一昨年クラブはプレミアリーグに返り咲いた。

 しかし、プレミアの壁は厚く、昨シーズンは14位。それもリーグ中盤まで最下位にいて、最後の9試合を7勝1敗1分で乗り切ったことで、なんとか2部降格を逃れた。そんな弱小クラブだから今季も上位進出など無理で、残留できれば御の字を思われていたわけだ。