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戦略は歴史から学べ
【第10回】 2016年4月13日
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鈴木 博毅

今こそリーダーはリンカーンの采配を学べ
南北戦争の逆転劇に見る危機のリーダーシップ

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南北戦争では当初、南軍が有利だった。有能な指揮官が揃う南軍に対して、北軍は劣悪な指揮と命令の無視により危機的な状況。リンカーンはどのようにリーダーシップを発揮し、窮地を打開することができたのか?今も昔も変わらない不変の勝利の法則を、ビジネスでも応用できるようにまとめた新刊『戦略は歴史から学べ』から一部を抜粋して紹介する。

【法則9】トップは、トップにしかできない決断を素早く行う

なぜ北軍のリンカーンは、将軍たちをクビにして勝てたのか?
1775年に始まるアメリカ独立戦争を経て、合衆国は領土をさらに西部と南部に広げていく。そして1861年、自由貿易をめぐって北部・南部が対立し、南北戦争が勃発。当初は南軍に有利だった戦局は、なぜリンカーンの指揮によって変わったのか?

明治維新の3年前まで繰り広げられたアメリカの内戦

 日本の江戸幕府と武士の時代が終わる契機となった明治維新は、薩長の新政府軍がイギリスから、江戸幕府がフランスから支援を受けていたことはよく知られています。アメリカのペリー提督が東インド艦隊を引き連れて日本の開国を実現したにもかかわらず、明治維新にあまりアメリカの影響が見られないのは、ある大戦争がその理由でした。

 1861年から65年まで繰り広げられ、死者62万人を出した南北戦争です。これは現在まで、一つの戦争で米国が経験した最多の死者数です。南北戦争の時期は、インディアン諸部族がかろうじて勢力を維持していた時代でもありました。南北戦争の最大の原因は、アメリカの国家分裂の危機です。南部諸州は綿花栽培と輸出による経済圏であり、北部は工業化が進展していました。南部は毛織物工業が進んだ英仏への輸出で潤っていたことで、関税のない自由貿易を好んだのです。

 一方で北部は工業製品の産業化を進展させるため、欧州の進んだ製品に関税をかけて、自国の産業を保護して育成する必要がありました。安価な労働力として黒人奴隷を使う農園が広がる南部とは対照的です。1860年10月の大統領選挙で、奴隷制の廃止を唱える共和党のリンカーン当選が伝わると、サウスカロライナを筆頭に南部の諸州が連邦から離脱を始めます。

北軍の劣悪な指揮に悩まされたリンカーン

 1861年2月に、南部州がアメリカ連合国を結成。デイビスが大統領に選出されます。リンカーンは、南部に残されたサムター要塞を放棄するか支援するかの判断に迫られます。 彼は支援を選びサムター要塞への補給を宣言。これに触発された南軍は、4月12日にサムター要塞を攻撃して南北戦争の幕が上がってしまいます(山岸義夫『南北戦争』では、補給宣言は南軍を戦争に誘うリンカーンの策略だった可能性を指摘しています)。

 南北は、当初から戦力差がありました。北部二三州の人口は2200万人、南部11州は人口900万人(400万人が奴隷)。戦争中、北部は200万人の兵士を召集、南部は90万人に留まり、工業生産力にも大きな差がありました。

 「合衆国の5分の4が北部に集中していたのである。北部はまた合衆国農地の67パーセントをしめていた。加えて北部の農業は多角化されていたのに対して南部の農業は綿花・タバコ・砂糖など単一商品作物の生産に集中していたため、食糧の自給すら不可能であった」(前出『南北戦争』より)

 大差にもかかわらず、4年間も内戦が長引いたのは分離時に将校の4分の1が南軍に入ったからです。有名なロバート・リー将軍、勇猛果敢な「石の壁」ジャクソン指揮官など、内戦初期に指揮・機動力を活かした戦闘で兵力に勝る北軍を何度も打ち負かします。

 逆に、リンカーンは北軍の指揮の劣悪さと命令の無視に何度も悩まされます。兵器の発達と工業力を背景に、第一次世界大戦よりはるか以前に自らの大陸で、死者を激増させる悲惨な「総力戦」をアメリカは始めてしまいます。

リンカーンの海上封鎖と、初期の南部の優勢

 南北戦争は西部戦線、東部戦線、海戦の3つの戦場で戦われました。開戦の年の7月、最初の激戦地ブル・ランでは南軍の指揮官がよく北軍の作戦を見抜き、ジャクソンの増援もあり南軍が勝利します。兵力の多い北軍は、短期間で勝つ甘い算段が粉砕され、敗戦に衝撃を受けたリンカーンは50万人の義勇兵を募集します。

 1861年の秋までは南軍が優勢でしたが、西部戦線では翌春から北軍の戦勝が続き、北軍の名将グラントが要所のヘンリー城、ドネルソン城を相次いで陥落させます。海上では開戦直後から北軍が南部の海上封鎖を行い、英仏との貿易が商業の中心だった南部経済は大打撃を受けます。翌六月にメンフィスで南部艦隊が北軍により全滅。

 この窮地は東部戦線での「石の壁」ジャクソンと、南軍司令官ジョンストンの死去で抜擢されたロバート・リー将軍の活躍で打破されます。ジャクソンは東部戦線で複数方向から分進する北軍をすばやい行軍で各個撃破、敵の包囲網から逃れながら大打撃を与えます。6月末には有名な7日間の戦いで、リーとジャクソンの南軍はアメリカ連合国の首都リッチモンドに迫る北軍を撃退することに成功。北軍の指揮官たちは実績のない大統領リンカーンの指令を軽視し、奮戦しませんでした。

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