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「メキシコから移民してきた僕の母は小学校卒。父も大学を出ていない。高校で初めてテニスに出合った自分が大学に行ける奨学金をもらえた以上、地域発展のために尽力したい」と語るのは、ミゲル・アルバレス君。そして同高校のブリアンダ・ベルトランさんもこう語る。
「私も高校に上がって初めてラケットを握った。お金持ちの地域の子どもたちが幼い頃からテニスをしているのを見て驚いた。自分はこれからプロ選手になるのは無理だけど、自分の子どもの世代にはテニスをする環境を整えてあげたい」
トッププロ選手の中でも、貧困や紛争の中を苦労して這い上がり、成功をつかんだケースもある。チェルノブイリ原発事故を機に、ロシアから米国へ家族で幼少期に移民してきた世界ランク9位のマリア・シャラポワも、その1人だった。
今年1月から新たに禁止薬物に加えられたメルドニウムを過去約10年間、主治医に薦められて服用し、その結果、ドーピング検査で陽性判定が出た、と自ら発表した。スポンサーのナイキやポルシェは彼女との契約を一時中断すると即座に発表したが、ラケットメーカーのヘッド社は契約継続を表明した。
テニスはスポンサー収入が命
シャラポワが被った影響は?
フォーブス誌によれば、シャラポワの2015年の収入のうち賞金は約700万ドルだが、スポンサー契約は2300万ドルとその3倍以上だった。シャラポワの収入は11年連続で全ての女性アスリートの中でトップ。まさにシャラポワ帝国を打ち立ててきたわけだ。前出のESPNのスポーツジャーナリスト、スティービー・マック氏はこう語る。
「テニスは大リーグやNBAバスケットボールと違い、決まった年俸はないから、基本、勝たなければ収入がない。だから、スポンサーからの契約収入がより重要だ。モデル並みの容姿を持つ彼女の場合、宣伝に使いたがる企業も多かったし、彼女も自分の商品価値を熟知するプロだったはずだから、今回の陽性結果のインパクトは大きかった」
彼はこう続ける。
「ゴルフのタイガー・ウッズも一時スポンサーを失ったが、今では再び多くのスポンサーの契約を獲得している。ナイキも多分、ほとぼりが冷めれば、シャラポワと再契約するのではないか。ランス・アームストロングのような確信犯のドーピング常習者とは、彼女のケースは違うと思う」