現行の賦課方式での社会保障制度は、貧しい現役世代や将来世代から裕福な高齢世代に所得を移転するのは、公平性の基準から見て正当化しがたい。さらに、巨額の財政赤字の累積により将来の増税負担が将来世代に先送りされている。世代間公平性の観点から、世代間の格差が社会保障制度を通じてこれ以上拡大しない政策的対応が望ましい。最善の改革案として「個人勘定積立方式」の概要を紹介していく。
急速な少子高齢化社会では、賦課方式の公的社会保障制度を維持する限り、若年世代から高齢世代へ、また、将来世代から現在世代へ再分配が行われる。問題は現在の高齢世代あるいは近い将来の高齢世代の給付水準が適切かどうか、また、その対象者が高齢者の中で本当に給付すべき人に適切に限定されるかどうかである。さらに、こうした給付を支える勤労世代の経済状況が増大する負担に応じきれるかどうか、それらが世代間公平に合致するかどうかである。
現行の賦課方式での社会保障制度は、弊害が大きいと言える。なぜなら、経済成長が低迷する状況では、若い現役世代や将来世代のほうが高齢世代よりも総じて貧しいからである。人口が減少するなか、賦課方式を通じて、貧しい現役世代や将来世代から裕福な高齢世代に所得を移転するのは、公平性の基準から見て正当化しがたい。さらに、巨額の財政赤字の累積により将来の増税負担が将来世代に先送りされている。世代間公平性の観点から、世代間の格差が社会保障制度を通じてこれ以上拡大しない政策的対応が望ましい。
家族勘定相互扶助方式とも呼べる個人勘定賦課方式という選択肢は、そうした世代間の不公平をミクロの家族レベルでの調整で緩和させることを意図したものである。積立金や国庫補助に頼らない点は、財源が曖昧なまま将来世代に負担を先送りしている現行賦課方式の難点を克服するメリットと言える。
一方で、限界もある。世の中の家族形態はさまざまであり、ミクロレベルで平和的な共存関係を構築している家族ばかりでもない。世代間の調整がミクロレベルでうまく回らない場合も多いだろう。少子高齢化社会で、かつ若い世代ほど経済状態が貧しくなる状況において、賦課方式のままでは世代間の不公平はそれほどは解消されない。また、現行の賦課方式では、勤労期の保険料負担に応じて国庫補助が上乗せされる形で老年期の給付が決まっており、世代内格差も助長している。
賦課方式の枠にとらわれずに抜本的に改革するなら、最善解は個人勘定積立方式である。この方式なら、年金で世代間格差も世代内格差も助長しない。もちろん、世代内格差を縮小するには、低所得者への補助金が別途必要になるが、それは公的年金とは別の枠組みで対応すべきだろう。
今回は、個人勘定積立方式のメリットと仕組みの概要について考えてみよう。賦課方式を維持する対象は基礎年金部分などに限定するとともに、抜本的に制度を改革して積立方式を導入するほうがよい。
ただし積立方式への移行にはコストがかかるため、直ちに全面的に移行するのは難しい。こういう理屈で、積立方式への移行は非現実的だとして、政府はこの可能性を排除してきた。そこで、直ちにかつ段階的に積立方式に移行しつつ、後戻りできない仕組みを提案したい。すなわち、旧勘定と新勘定に分けて、若い世代が順次加入する新勘定として個人勘定積立方式を直ちに導入する。では、個人勘定積立方式のメリットと現行の賦課方式からどのように段階的に移行できるのかを議論したい。
政府管理型と自由放任型の問題点
社会保障制度を積立方式に移行する場合、いくつかのバリエーションがあり得る。たとえば、政府がこれまでと同様に保険料を強制的に徴収し、資金を一括して代理運用するという「政府管理型」がある。この方法については、スケールメリットが働いて資金運用のコストが軽減できるという利点がしばしば指摘される。ただし、運営面のスケールメリットなどコスト面における政府による資金の一括運用の優位性は、ITの進展などによる金融取引の効率化によって次第に薄れていく。
2015年に生じた年金機構の情報漏れ騒ぎにみられるように、サーバー攻撃にさらされたときのリスクは一元管理のほうが大きい。また、官僚の不祥事もしばしば指摘される。さらに、資金運用が巨大であることから市場に及ぼす効果が大きすぎるため、政治的な圧力を受けやすい点も懸念材料である。運用当事者の責任が不明確であれば、過度にリスク運用をする弊害も生じる。結果として、損失が生じれば、その穴埋めに国庫負担が投入されて財政赤字につながり、将来世代への負担が増大することになりかねない。