世界の地政学リスク分析を専門とする米国のコンサルティング会社、ユーラシア・グループを率いるイアン・ブレマー氏に、米大統領選が日本や米国、世界にもたらすリスクについて聞いた。

Ian Bremmer/米スタンフォード大学にて博士号を取得後、世界的なシンクタンクであるフーバー研究所のナショナル・フェローに最年少の25歳で就任。その後、28歳で調査研究・コンサルティング会社のユーラシア・グループを設立。主な著書に『スーパーパワー』(日本経済新聞出版社)など。Photo:Kazutoshi Sumitomo

──ここまでの大統領選をどう見ていますか。

 民主党の候補はヒラリーで決まりでしょう。ただ、サンダースの躍進でヒラリーの人気のなさが露呈してしまいましたが。

 一方共和党は、トランプがずっとフロントランナーであるという想定外の出来事が起きている。それには四つの理由があります。

 第一に、貿易自由化などのグローバル化が、収入が少なく教育が不十分な人々や多くのマイノリティーに何のメリットももたらさなかったこと。仕事を海外に奪われ、賃金も上がらない。トランプはそうした人々に訴えたのです。

 第二は、米国民の変化です。若い人々は多文化的で、宗教的ではなく、同性愛など社会的課題に対してリベラルです。それに対して古いタイプの人々、教育が不十分で経済的に恵まれていない人々は、政府が自分たちの声をもはや聞いていないと感じている。トランプの“Make America great again”というキャッチフレーズは、時間を巻き戻して、米国を好きだったかつての姿に戻そうという、リアクション的なムーブメントなんです。

 第三は、ソーシャルメディアの影響力です。ほとんどの米国人は、ソーシャルメディアでメッセージやニュースを見ていて、トランプはそれをうまく使っている。700万人のフォロワーがいるトランプと比べて、クルーズはその10分の1しかいません。

 最後に、従来メディアが経営悪化で視聴率稼ぎに躍起になっていることです。トランプの攻撃的な発言は視聴者の注目を集める。だから、他の候補者の10倍も取材され放映されているわけです。

 今後の可能性は二つしかありません。トランプが勝つか、もしくは党大会でブローカー・コンベンションになるか。確率は6対4か5対5でしょう。過去10回のブローカー・コンベンションのうち7回は予備選1位ではなかった人が候補になっている。アイゼンハワーやリンカーンもそうでした。

 本選がトランプ対ヒラリーとなった場合は、今までよりもすごく汚い(言葉が飛び交う)選挙になる。最終的にはたぶんヒラリーが勝つでしょうが、それでもヒラリーも共和党も相当なダメージを受けるでしょう。

 ただ、トランプにも20%くらいはチャンスがあるかもしれない。「トランプ大統領」もあり得ない話ではないということです。

 どちらが勝つにせよ、国内に広がった「憎しみの政治」は続きます。世論調査では、オハイオ州やフロリダ州では6割以上の共和党員がイスラム系の人の入国を禁じることに賛同しています。明らかに憲法違反で、ばかげたことです。しかしそういう感情がどんどん大きくなってきています。