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山田厚史の「世界かわら版」

落日の財務省で「財政破綻願望」が静かに広がる

山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]
【第111回】 2016年6月9日
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 大蔵省だった頃は「権力の守護神」と呼ばれていた。今の財務省に、その威光はない。

 悲願の消費税10%は2年半先送りされ、その先は茫々だ。次は、中期目標に掲げる「2020年度財政基礎収支(プライマリーバランス)の黒字化」の看板を下ろすことになるだろう。アベノミクスのエンジンを噴かす、と豪語する政権に、「財政健全化」は障害物でしかない。

 財務官僚に無力感が広がり、「破局願望」さえ漂うようになった。

 大蔵官僚が政治家を操ったのは、遠い日の記憶。政権の僕(しもべ)となったこの落日ぶりは、なぜ起きたのか。

官邸に首根っこを押さえられた財務省
抵抗も増税見送りの既定路線は微動だにせず

 「お約束とは違う、新しい判断」が示されたのはG7の伊勢志摩サミット終了直後。安倍首相は、2017年4月に設定した「消費税10%への引き上げ」を撤回、2010年10月へと再延期した。財務省は、この瞬間を覚悟し、待ち構えていた。

 増税回避の工作は水面下で着々と進められていたが、首相は「リーマンショック級の危機が起きない限り予定通り行う」と繰り返していた。首相が「増税をやる」言っているからには、表だった阻止行動は控える、というのが田中一穂事務次官の方針だった。

 首相の表明で「抵抗」は解禁となる。28日夜、麻生財務相は官邸で首相に会い「国民との約束を違えるなら衆議院を解散すべきだ」と迫った。同席した谷垣禎一自民党幹事長も増税延期に慎重だった。財務省は、二人が揃って首相を説得することで、奇跡が起こることに淡い期待を寄せていた。

 抵抗はここまで。首相表明は、論議の開始ではなく、最終決定である。延期の理由が屁理屈だろうと、財務大臣が何を説こうと、既定路線はピクリとも動かなかった。

 「裏で動けば人事で報復される。自民党への根回しはとてもできなかった」と財務官僚は自嘲的に言う。

 安倍政権が財務省の首根っこを押さえたのは2014年5月、内閣人事局の発足による。各省の審議官から上の人事は内閣人事局が行う。各省大臣に委ねられていた人事権を首相官邸が握ったのである。

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山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]

やまだ あつし/1971年朝日新聞入社。青森・千葉支局員を経て経済記者。大蔵省、外務省、自動車業界、金融証券業界など担当。ロンドン特派員として東欧の市場経済化、EC市場統合などを取材、93年から編集委員。ハーバード大学ニーマンフェロー。朝日新聞特別編集委員(経済担当)として大蔵行政や金融業界の体質を問う記事を執筆。2000年からバンコク特派員。2012年からフリージャーナリスト。CS放送「朝日ニュースター」で、「パックインジャーナル」のコメンテーターなど務める。

 


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元朝日新聞編集員で、反骨のジャーナリスト山田厚史が、世界中で起こる政治・経済の森羅万象に鋭く切り込む。その独自の視点で、強者の論理の欺瞞や矛盾、市場原理の裏に潜む冷徹な打算を解き明かします。

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