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山田厚史の「世界かわら版」

日本をヘリコプターマネーの実験場にしてはならない

山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]
【第114回】 2016年7月21日
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 参議院選挙で勝利した安倍政権は「アベノミクスは信任を得た」として、「道半ば」の政策を加速する、という。とはいえ金融緩和はすでに行き詰まっている。次は「政策の総動員」の掛け声と共に財政の大盤振る舞いが始まるだろう。「10兆円の景気対策」が打ち上げられた。問題は財源だ。増税は封印され、法人税は減収が予想される。浮上したのが財政投融資の活用。郵便貯金の潤沢な資金で賄われた財投も、郵貯が民営化された今、頼る原資は財投債。政府の借金、つまり国債である。マイナス金利では国債の買い手がない。結局は日銀が引き受けることになる。

 財政の尻を日銀が面倒見る「財政ファイナンス」が刻一刻と深まっている。そして「ヘリコプターマネー」が取り沙汰されるようになった。空からカネを撒くような、究極の不健全財政。亡国のリスクを孕む奇策が、日本で社会実験される可能性が膨らむ。

「通貨の乱発」と「財政の拡大」
歴史に学べば危険で手を出せない奇策

 「アベノミクスの加速」を安倍首相が記者会見で語った翌日、官邸にアメリカの中央銀行である米連邦準備制度理事会(FRB)の前議長、ベン・バーナンキ氏がやってきた。

 「ヘリコプター・ベン」と呼ばれるほど、ヘリコプターマネーに関心を寄せる経済学者だ。官邸は「表敬訪問」としているが、安倍首相の経済ブレーン本田悦郎氏(内閣官房参与からスイス大使に抜擢)が間に入って会談をセットしたという。

 官房長官の定例会見で「ヘリコプターマネーは話し合われたか」と問われ菅長官は「特段の言及があったとは承知していない」としながらも「バーナンキ氏は金融緩和の手段はいろいろある、と言っていた」と答えた。

 翌日の産経新聞は「ヘリコプターマネー検討へ」と一面に打った。首相周辺で、日銀が国債を買い切って財政資金を提供する政策が検討課題に浮上している、として本田氏が首相に「今がヘリコプターマネーに踏み切るチャンスだ」と進言した、とも書かれている。

 安倍をバーナンキに会わせヘリマネを政策課題に載せようとする意図が見え見えだ。

 そもそもヘリコプターマネーとは何か。

 提唱者はバーナンキ氏の師匠筋に当たるノーベル賞経済学者のミルトン・フリードマン氏である。

 デフレは市場に出回る通貨が足りないから起こるマネー現象と見て、金融緩和によってデフレは解消するという考えに基づいている。中央銀行が資金を供給しても、経済が委縮して家計や企業にマネーが浸透しない時は、空からカネを撒いて使いたい人に拾わせればいい、という手法。中央銀行が発行する通貨が末端まで届き、デフレから抜け出すことができる、という理屈だ。

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山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]

やまだ あつし/1971年朝日新聞入社。青森・千葉支局員を経て経済記者。大蔵省、外務省、自動車業界、金融証券業界など担当。ロンドン特派員として東欧の市場経済化、EC市場統合などを取材、93年から編集委員。ハーバード大学ニーマンフェロー。朝日新聞特別編集委員(経済担当)として大蔵行政や金融業界の体質を問う記事を執筆。2000年からバンコク特派員。2012年からフリージャーナリスト。CS放送「朝日ニュースター」で、「パックインジャーナル」のコメンテーターなど務める。

 


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元朝日新聞編集員で、反骨のジャーナリスト山田厚史が、世界中で起こる政治・経済の森羅万象に鋭く切り込む。その独自の視点で、強者の論理の欺瞞や矛盾、市場原理の裏に潜む冷徹な打算を解き明かします。

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