沖縄県・尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視艇と衝突した事件で、那覇地検は勾留期間を5日も残したまま、漁船の船長を処分保留のまま突然釈放した。それを機に、独立が重視される検察への「政治介入」が取り沙汰されたが、政府はこれを完全否定。議論は今なお尾を引いている。尖閣問題で露になった政府のドタバタぶりは、日本の外交政策に大きな不安を残した。かつて東京地検で特捜部副部長や公安部長を務めた若狭勝弁護士は、法の精神に照らしても「政治介入は妥当」と主張し、軸足の定まった政治判断の必要性を説く。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)
わかさ・まさる/1956年生まれ。26年間に渡り、検事の幅広い職務に従事。83年検事任官。福島地検、横浜地検、東京法務局などを経て、2004年に東京地検特捜部副部長、07年に東京地検公安部長に就任。09年3月に退官し、弁護士登録。現役時代に数々の刑事事件を手がけた経験や知識を基に、コメンテーターとしても活躍。
――沖縄県・尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視艇と衝突した事件で、那覇地検は、勾留期間を5日も残したまま、漁船の船長を処分保留のまま突然釈放した。地検が記者会見で「国民への影響や日中関係を考慮した」と異例の発表をしたため、「官邸から政治介入があったのでは」という見方が強まり、物議を醸している。今回の事件について、どう考えるか?
巷間言われているとおり、政府が自らの政治的判断を地検に伝え、地検がそれによって釈放を決めたことは、まず間違いないだろう。
9月19日、地検は船長の勾留期間を10日間延長すると発表した。それから数日の間に、水面下で色々な動きがあったと考えられる。検察が延長請求したときは、よもやそれから5日後に釈放するという事態は想定していなかっただろう。
フジタ社員の拘束問題を含め、中国が予想よりも強い圧力をかけてきたこと、これ以上日本にことを荒立てて欲しくない米国が「尖閣は安保の対象」と表明したため、日本の面子が保たれたことなどから、官邸サイドで一気に収束に向けた働きかけが強まったと推測される。