拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。
この第5回の講義では、「ビジョン」に焦点を当て、拙著、『複雑系の知』(講談社・キンドル)や『まず、世界観を変えよ』(英治出版)において述べたテーマを取り上げよう。

地獄への道は、善意で敷き詰められている「集団的無責任社会」「全員の連帯責任だ」や「関係者の共同責任だ」という言葉が安易に語られる組織や職場では、必ず、「集団的無責任状況」が生まれてくる

「集団的無責任社会」がやってくる

 今回のテーマは、

地獄への道は、善意で敷き詰められている「集団的無責任社会」。

 このテーマについて語ろう。

 誰もが感じていることであるが、現在の社会は、なぜ、これほど「企業不祥事」が多発するのだろうか?

 改めて例に挙げるまでもなく、東芝の不正会計問題、三菱自動車の燃費データ不正改竄問題、日本原子力研究開発機構の高速増殖炉もんじゅの点検漏れ問題など、問題が発覚した後、誰が考えても、「どうして、こんな大問題になる前に、誰かが、問題を指摘し、組織的な改善ができなかったのか?」との疑問が浮かぶ不祥事が多発している。

 こうした問題の詳細な分析は、他の優れた論説に譲りたいが、今回の田坂塾のテーマである、「これから社会がどうなっていくのか」という「ビジョン」の観点から見るならば、答えは明確である。

これから、現代の社会は、「集団的無責任社会」とでも呼ぶべきものに変わっていく。

 こう述べると、極論と思われる読者がいるかもしれないが、実は、現代の社会は、高度な「複雑系」(Complex System)としての性質を強めているため、こう表現せざるを得ない社会システムに変貌してきている。

 しかし、冒頭から、あまり難しい話は避け、この「集団的無責任社会」を象徴する、一つの寓話を紹介しよう。