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「決め方」の経済学
【第11回】 2016年8月10日
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坂井豊貴

先の都知事選は都民の意思をきちんと反映したのか
「決め方」の専門家が小池氏の勝利を検証する

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都知事選が終わり、小池百合子氏の圧勝という結果に終わった。しかし、選挙が「多数決」という問題がある決め方を使っている以上、都民の意思を反映しているとは言いがたい。
そこで、『「決め方」の経済学』の著者である坂井豊貴氏に都知事選の結果をレビューしてもらった。よりよい決め方である「ボルダルール」を使った場合、小池氏は勝てるだろうか?

多数決による選挙では
人々の意思は反映されない

 7月31日に東京都知事選が行われた。開票結果は、小池百合子氏が291万2628票、増田寛也氏が179万3453票、鳥越俊太郎氏が134万6103票、それに4位以下の諸候補が続いた。小池氏は、自民・公明などが推した増田氏と、民進・共産などが推した鳥越氏を、ともに抑えての圧勝である。

 都知事選に限ったことではないが、日本の選挙は多数決で行われている。そして多数決は「決め方」として出来が悪いというのは本連載では何度も述べたとおりだ(第4回など)。

 この決め方は票の割れに致命的に弱く、2000年のアメリカ大統領選では「第三の候補」ネーダーがゴアの票を絶妙に喰い、ブッシュに勝利が転がり込んだ。最近あった日本の参院選では、32区ある「1人区」のうち4区で、幸福実現党が自民党の票を絶妙に奪い、民進党に勝利が転がり込んだ(第6回)。

 念のため述べておくが、これはネーダーや幸福実現党を非難しているわけでも、賞賛しているわけでもない。ただ多数決というゲームのルールのもとでは、「票の割れ」が結果を大きく左右すると指摘しているのだ。

 選択肢が3つ以上あるとき、多数決は人々の大意を結果にうまく反映させることができない。そこで有力な代替案となる投票方式が、有権者が候補たちに順序を付け「1位に3点、2位に2点、3位に1点」のように加点するボルダルールだ。

 有権者は「2位以下」へも意思表示できるので、票の割れによる共倒れを回避できる。書籍の賞の選考では、ボルダルールやこれに似た投票方式が用いられることが多い(本屋大賞とマンガ大賞の二次選考、新書大賞の選考など。国政選挙だと中欧スロヴェニアに活用例)。

都知事選でボルダルールを
使っていたら?

 では、もし今回の都知事選でボルダルールを使っていたら結果はどうなったのだろう。小池氏はボルダルールのもとでも勝てていたのか。この問いを、主要候補である小池氏、増田氏、鳥越氏の3人に限って考えてみよう。

 有権者は、これら候補3人に対して、6通りの順序を付けられる。それら順序をリストアップすると

・タイプA:1位が小池、2位が増田、3位が鳥越
・タイプB:1位が小池、2位が鳥越、3位が増田
・タイプC:1位が増田、2位が小池、3位が鳥越
・タイプD:1位が増田、2位が鳥越、3位が小池
・タイプE:1位が鳥越、2位が小池、3位が増田
・タイプF:1位が鳥越、2位が増田、3位が小池

である(図1)。

 どのタイプの有権者が何人いるか正確に分かるならば、それをもとにボルダルールの得点を計算できる。ただし残念ながらそうしたデータはないので、選挙結果から大まかに推量してみたい。

 小池に投票した291万2628人の「小池支持者」はタイプAかBのどちらかと考えてよいだろう。同様に、増田に投票した179万3453人の「増田支持者」はタイプCかDのどちらかで、鳥越に投票した134万6103人の「鳥越支持者」はタイプEかFだ。

 小池にとっても最も不利なケースは、小池支持者が全員「増田を2位」にして、かつ増田と鳥越の支持者が全員「小池を3位」にするときだ。つまり図2のケース。

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坂井豊貴(さかい・とよたか)慶應義塾大学経済学部教授。ロチェスター大学Ph.D.(Economics)

1975年生まれ。慶應義塾大学経済学部教授。。横浜市立大学、横浜国立大学、慶應義塾大学の准教授を経て、2014年より現職。人々の意思をよりよく反映させる選挙方式、物を高く売るオークション方式、人と組織を上手く結ぶマッチング方式といった制度設計の研究で、多くの国際業績をあげる。著書には『マーケットデザイン入門』(ミネルヴァ書房)、『社会的選択理論への招待』(日本評論社)といった定番テキスト、および一般向けの『マーケットデザイン』(ちくま新書)、『多数決を疑う』(岩波新書、2016年新書大賞4位)などがある。2015年義塾賞。


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