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「決め方」の経済学
【第6回】 2016年7月21日
著者・コラム紹介バックナンバー
坂井豊貴

幸福実現党が出なければ自民党はさらに勝っていた
「票の割れ」から見る参院選2016レビュー

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自民党の圧勝だった先の参院選。『「決め方」の経済学』の著者、坂井豊貴教授によると、なんと「幸福実現党の出馬がなければ自民党の議席はさらに伸びていた」という。それは似た候補者同士で票を喰い合う「票の割れ」という制度上の欠陥に原因があると指摘する。詳細を聞いた。

「票の割れ」の
好例を探して

 わたしは多数決をはじめとする「決め方」の研究者だ。原稿や取材では、多数決が票の割れに弱いことを説明して、代替案が必要だと議論を展開する。そうするとスムーズに話を進めやすい。

 票の割れの例としては、2000年のアメリカ大統領選を用いることが多い。つまり民主党のゴアが共和党のブッシュに優勢していたところ、「第三の候補」ネーダーが参戦、ネーダーはゴアの票を絶妙に喰いブッシュが「漁夫の利」で逆転勝利をおさめた、という話である。

 この話はとても分かりやすい。しかもブッシュは2003年にイラク侵攻を主導し、結果としていわゆる「イスラム国(IS)」を誕生させており、ネーダー立候補の影響がその後の世界情勢に大きな影響を与えたとまでいえる。

 では他に好例はないのだろうか。票の割れじたいは、衆院選の小選挙区や、参院選の一人区でよく起こっているので、例はたくさんある。だが、例が「好例」であるためには、論理的に適切であるだけではなく、物語として適度に扱いやすいことが大切だ。

 2014年の衆院選小選挙区の東京一区での、主要3候補の結果を見てみよう。

1位 山田美樹(自民)10万7015票
2位 海江田万里(民主)8万9232票
3位 冨田直樹(共産)3万2830票

 これは、もし民主党と共産党が選挙協力をしていれば、海江田氏を勝たせられたケースである。海江田氏は当時、民主党の代表だったので、彼の落選は民主党への大変なダメージとなった。

 だがこの例だと「多数決というヘンな制度の話」だけで話は終わらない。その後の、民主党の凋落、民主党と維新の党との合併による民進党の結成、民進党と共産党との選挙協力など、話が進みすぎるのだ。つまり物語としてはこの話だけでおさまらない。また聞き手が自民党の支持者で「票が割れてよかったじゃないか」と思うときには多数決の性能の話になりにくい。

 この点、2000年のアメリカ大統領選のほうが、票の割れの説明をする例としては、日本では適度にあっさりしていてよい。もちろん人類の惨禍としては全然あっさりしていないのだけれど。

 念のため強調しておくと、本稿で述べている「好例」とか「よい」とか「あっさり」は、あくまで多数決の説明者である私にとっての便利さのことであって、事態の規範的な評価ではない。

舛添氏の圧勝だった
前回の都知事選

 さて、いまは舛添氏の辞任にともなう東京都知事選の真っ最中だ。ここでは票の割れを説明する「好例でない例」として、舛添氏が勝った2014年都知事選での主要4候補の結果を見てみよう。

1位 舛添要一 211万2979票
2位 宇都宮健児 98万2594票
3位 細川護煕 95万6063票
4位 田母神俊雄 61万0865票

 この選挙結果を見て「舛添氏は票の割れのおかげで勝った」とはいいがたい。ともに「脱原発」を掲げていた宇都宮氏と細川氏で票の割れは起こったはずだ、とはいえる。だが両者の票を足しても、舛添氏の票には届かない。また、もし田母神氏が出馬していなかったら、その票は少なからず舛添氏に流れたようにも思われる。

 票の割れの説明は、主要候補が3人のほうが、また政党のカラーが付いているほうが(都知事選では4候補とも後援組織はあるが無所属)、やりやすい。

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坂井豊貴(さかい・とよたか)慶應義塾大学経済学部教授。ロチェスター大学Ph.D.(Economics)

1975年生まれ。慶應義塾大学経済学部教授。。横浜市立大学、横浜国立大学、慶應義塾大学の准教授を経て、2014年より現職。人々の意思をよりよく反映させる選挙方式、物を高く売るオークション方式、人と組織を上手く結ぶマッチング方式といった制度設計の研究で、多くの国際業績をあげる。著書には『マーケットデザイン入門』(ミネルヴァ書房)、『社会的選択理論への招待』(日本評論社)といった定番テキスト、および一般向けの『マーケットデザイン』(ちくま新書)、『多数決を疑う』(岩波新書、2016年新書大賞4位)などがある。2015年義塾賞。


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