経営×ソーシャル

ソーシャル時代のいま、
なぜコーポレート・アイデンティティが必要か

「QON DAY 2016」に登壇した小田嶋孝司氏

今年の6月、消費者コミュニティ運営のパイオニアであるクオン株式会社主宰のセミナー「QON DAY 2016」 が開催された。当日は754名もの参加者が集まり、コミュニティ導入企業からの実践報告や識者による講演が行われた。そこに基調講演として登場したのが、これまでNTTやキリンビール、伊藤忠商事、野村総合研究所などさまざまな有名企業のコーポレート・アイデンティティ開発に携わってきた小田嶋孝司氏だ。クオン株式会社のCIプロジェクトを手がけた小田嶋氏が、コーポレート・アイデンティティとは何かという基礎的な話から、ソーシャルメディアが普及した現代のブランド戦略まで、自身の関わった案件を紹介しながら幅広く語った。

大切だけどわかりづらい「CI」の話

小田嶋孝司(おだじま・たかし)
株式会社SHIFT代表取締役、武蔵野美術大学芸術文化学科非常勤講師。
主な仕事:電電公社民営化(NTT)、NTT移動体通信事業分離独立(NTTDoCoMo)、キリンビール、伊藤忠商事、野村総合研究所、一橋大学、伊藤忠テクノソリューションズ、積水化学、三井不動産リアルティ(三井のリハウス/三井のリパーク)、広島県(観光地ブランド開発)他多数のCI開発/経営コンサルテーション。
主な著作:『シンボリック・アウトプット』(プレジデント社)、『「健識」経営革命』(プレジデント社)、『「日の丸」「君が代」ってなに?ー日本のシンボルを考える』(毎日新聞社)、他。

 CI(コーポレート・アイデンティティ)の「アイデンティティ」とは、そもそもなんなのでしょうか。アイデンティティとはもともと、精神医学や発達心理学で扱われる、個人における概念で、それを組織体に置き換えて考えたのがCIです。個人においては親や国籍、言語など自らは選びようのない帰属性と、自分自身の好き嫌いや、こう見られたいという思いなど、自らの意志で変えられる自律性の間で葛藤が起きます。それをどう乗り越えるかという過程がアイデンティティの問題領域です。ではそれを企業に当てはめると、どうなるでしょうか。

 まず、世の中からどう見えているかというファクトの部分があります。それは、創業者や社名・ロゴ、業態・商品など、現状のファクト、帰属性にあたるものです。そして、自律性にあたる「どうありたいか」という部分には、「優良企業でありたい」「成長力をもちたい」「いいイメージをもってもらいたい」などの変えられる思いがあります。この「どう見えているか」と「どうありたいか」が近ければ近いほど、CIは強固だといえるのです。

 CIのほかに、BI(ブランド・アイデンティティ)という概念もあります。CIはどちらかというと内観型で、自分たちは一体何者なのかということを考えることから始まります。企業理念や、それを支える企業文化が中核になります。一方、BIはどちらかというとマーケティング発想にもとづいています。事業や商品の領域で、消費者の共感を得るしくみづくりからアプローチをするやり方と言えるでしょう。

 ここで、1992年に手がけた伊藤忠商事のCI開発事例をご紹介します。総合商社の商材やビジネスのしくみはあまりにも多岐に渡るため、社員の共通項とはいったい何かを探ることから始めました。そこで、皆が共有できるものは唯一「利益」であることが抽出されました。では、利益とは何なのか。徹底した議論を重ねた結果、「PROFIT(量的利益)」ではなく、「BENEFIT(質的利益)」へ考え方を転換しようということにまとまったのです。そして、経済的、社会的、そして個人のベネフィットを追求しようという理念の体系ができました。この「個人」という切り口は、当時とても新しかった。ここに焦点をあてたことが、後に画期的な人事評価制度をつくったり、ワーク・ライフ・バランスを取れる働き方を実践したりする会社へと導いたといえるでしょう。


ソーシャルメディア進化論2016

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