築地市場の豊洲移転問題で再び注目を集める、日本の組織を支配する「空気」の存在。戦時中における旧日本軍の意思決定から、東日本大震災の対応、東芝の粉飾決算など、私たちのメンタリティは今も変わっていない。なぜ、日本人は同じ失敗を繰り返すのか?なぜ日本企業は変われないのか?14万部のベストセラーとなった『「超」入門 失敗の本質』の著者が、日本的組織のジレンマを読み解く。

 2011年の東日本大震災時の東電や政府の対応、三菱自動車のデータ偽装、東芝の粉飾決算、築地市場の豊洲移転問題……。近年、首を大きくかしげたくなる問題が日本社会で次々に発覚しています。

 そして、これらの問題はどこか「既視感」を覚えるものばかりです。今も昔も結局、日本のメンタリティは変わっていないように思えます。日本社会、ひいては日本人に共通するある精神性が、こうした問題を繰り返し引き起こしているのではないでしょうか。

 なぜ、日本人は同じ失敗を繰り返すのでしょうか?そして、なぜ日本企業は変われないのでしょうか。

巨大組織の東京都庁が改めて示した
「日本的組織」の病魔

 この夏から秋にかけて多くの人の注目を集めた問題がありました。築地市場の豊洲移転問題です。老朽化、過密状態の改善を理由とした築地市場の移転は、本来は多くのプラスを生み出すために計画されたはずでした。

 ところが豊洲の予定地にベンゼン、ヒ素などの土壌汚染が判明し、その対策として計画されたはずの盛り土が実際にはされていないことが発覚してしまったのです。

 今年の8月から就任した小池新都知事は、この問題とその対処について次のように語りました。

「土壌汚染対策を担当する土木部門と建物管理を担当する建築部門が縦割りで連携不足で、(中央卸売市場の責任者の)市場長など管理部門のチェックもなされていなかった。答弁は前の答弁をそのまま活用した。ホームページには誤った概念図をそのまま使用し、誰も気付かなかった」(日本経済新聞、9/30より)

「業務を把握すべき立場の歴代の市場長は盛り土をしないと知らずに決裁してきた。今回の事態を招いた最も大きな要因は責任感の欠如だ。組織運営システムの問題だ『都庁は伏魔殿でした』と評論家のように言っているわけにはいかない」(同前)

 東京都は計画段階で、約40ヘクタールの豊洲新市場予定地を4122地点にわたり詳細に調査しています(地盤面から深さ50センチメートルの土壌と地下水)。

「調査の結果、人の健康への影響の観点から設定されている環境基準を超える地点は、土壌または地下水で1475地点(36パーセント)でした。このうち1000倍以上の汚染物質が検出されたのは、土壌で2地点、地下水で13地点であり、敷地全体に高濃度の汚染が広がっていないことが分かりました」(東京都中央卸売市場ホームページより)

 これだけの事前調査をもとに決定された対策が、すべてきちんと行なわれていれば、豊洲市場への移転は大きな問題にならなかったのではないでしょうか。しかし対策である盛り土をしない、という決定がなぜか都政の中で段階的に承認されてしまいます。土壌の浄化対策を前提とした移転計画なのに、その前提を実施せずに建設が進んだのです。

「一連の流れのなかで盛り土をしないことが段階的に固まっていったと考えられる。ここが問題だが、いつ誰がという点をピンポイントで指し示すのはなかなか難しい。それぞれの段階で、流れや空気のなかで進んで。それぞれの段階で責務が生じるものと考える」(日本経済新聞、9/30より)

 大規模な調査が行なわれ、土壌浄化の実証実験までされています。にもかかわらず豊洲新市場への移転はトラブルに見舞われています。この現状は残念ながら、盛り土をしない決定を承認した都庁と行政自身が生み出してしまった問題といえるのではないでしょうか。