経済力の増大を背景に、中国の軍事費は毎年大きな伸びを見せている。安全保障の観点からみて、果たして中国は日本の脅威となったのか。防衛省防衛研究所・増田雅之主任研究官に、この40年間に生じた中国の変化を踏まえ、我が国はどう対応すべきなのかを聞く。

脅威とは意思と
能力の掛け算

ますだ まさゆき/慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科単位取得。上海大学客員研究員、東京女子大学非常勤講師など経て、2010年から現職。専門は中国の外交・安全保障政策、アジア太平洋の安全保障。最近の著作に、『アジア太平洋の安全保障アーキテクチャ』(共著、日本評論社)、『中国 改革開放への転換』(共著、慶應義塾大学出版会)、『日中安全保障・防衛交流の歴史・現状・展望』(共著、亜紀書房)などがある。

――日中国交正常化してから、40年がたちます。この間、中国の安全保障に対する姿勢はどう変化してきたのでしょうか。ズバリ言って、中国は日本にとって、脅威と言えるのでしょうか。

増田 40年前の1972年の段階で、軍事的な意味で中国が安全保障上の脅威を日本に対して構成してはいませんでした。

 もちろん、日本は核兵器を持たず、中国は核兵器を保有していたという能力の違いはありましたが、脅威とは能力と意図の掛け算です。1972年当時は、中国にとって最大の敵・脅威はソ連だと認識していて、アメリカや日本も含めて、ソ連に対する統一戦線を組むことが政治的な意図で、こうした中国と日本は国交を正常化しました。したがって、意図の面で、中国が日本に対して軍事力を行使する可能性はほとんどありませんでした。能力の面でも、文化大革命に伴う混乱が長く続いた結果、通常戦力の近代化はほとんど実現されていませんでした。