インテリア(内装材)分野のリーディングカンパニー・サンゲツの近藤康正社長は、現在の内装産業のボトルネックを「日本の失われた30年に連動した現象」と表現する。表面的な景気変動ではなく、住宅着工数の減少とともに、職人の高齢化や人材流入の減少が進み、需要が残る一方で、それを支える供給力だけが静かに削られてきたという認識だ。

同社のビジネスは、メーカーと協業して商品を企画・開発し、物流網を通じて市場に届け、施工されて初めて価値が成立する。物流と施工を含めたバリューチェーン全体が機能してこそ事業は成り立つが、後半部分ほど人手への依存度が高く、供給制約が顕在化している。「物流と施工が完了しなければ、商品が商品として成立しません。このフェーズをいかに省人化し、安定させていくかが、事業継続における重要な課題です」(近藤社長)。

近藤社長が掲げる目標は、デザイン性や価格競争力の追求にとどまらず、環境配慮や省施工といった社会課題に応える機能を、商品と仕組みの両面から提供することにある。誰が担い手になっても品質を維持できる内装の在り方を模索しているのだ。

職人不足という社会課題に応える
内装材の再設計

この戦略を具現化したのが、下地材である石膏ボードと壁紙を工場で一体化させた新建材「INNO PANEL(イノパネル)」である。パテ工程と現場での壁紙施工を省略することで工期短縮を実現し、ビス打ちが不要なため作業音を抑え、商業施設など営業時間中の施工にも対応できる。壁紙のひび割れを軽減し、美観を長期に維持できる点も特徴だ。

深刻な職人不足の解決へ向け、働き方を変える「下地と壁紙の一体化」が開く内装業界の未来人手不足と戦う現場を“壁”から変えていくINNO PANEL。最低2人で、ベテランでなくても施工が可能

INNO PANELは、特別な熟練技術がなくても、一定の知識と現場経験を積んだ職人であれば安定した品質を確保できる設計となっている。そのため、従来に比べて施工を担える人材の裾野が広がる。

こうした人材への向き合い方について、開発を率いたプロジェクトマネージャーの五味川健治室長は、「職人の仕事を奪うのではないか」という懸念を明確に否定する。平面部の施工を効率化することで、経験の浅い職人でも安心して対応できる。一方、熟練職人はより難度の高い仕事に集中でき、技術の価値が正当に評価される環境につながるという。

この役割分担は、現場全体の生産性を高めると同時に、熟練者への仕事の集中を和らげ、若手の育成を含むより重要な役割を担える環境をつくる。結果として、長時間労働や突発的な夜間作業が常態化してきた現場環境の改善が進み、若手職人の離職防止や定着につながる土壌が生まれやすい。

さらに、省施工による工程削減は、騒音や廃材の発生を抑え、環境負荷の低減にも寄与する。まさに、人手不足に起因する現場の多層的な課題に対し、商品の力で解決の糸口を提示している。

五味川室長は入社以来約20年間、営業の最前線で現場と向き合ってきた。繁忙期に職人を確保できず、工期調整に奔走する内装事業者の苦悩は、20年前から変わらぬ課題だったという。「職人が足りないという相談は昔からありましたが、ここ数年で、供給力の限界による現場の停滞は看過できないレベルに達しています」。

INNO PANELの構想が具体化したのは約2年前。社内では以前から「壁紙と下地を一体化した新建材」というアイデアは存在していたが、当初は意匠面での可能性を思い描く段階にとどまり、施工プロセスを変革する発想には至っていなかった。

転機となったのが、吉野石膏のビス不要工法「スマートJG工法®」(※)との出合いだ。さらに、貼合(てんごう)分野で技術力を持つフジプレアムと協業し、石膏ボードと壁紙を工場で高精度に一体化する生産体制を構築した。五味川室長は、「貼合は当社にとって前例のない領域だった」と振り返る。その上で、建築基材、壁紙、貼合技術という各社の強みを持ち寄り、業界課題の解決を目指す方向性を共有できたことが、完成に結び付いたと語る。

コストでは測れない
価値をつくる

材料単価だけを見れば、INNO PANELは従来品より高くなる可能性がある。しかし近藤社長は、評価軸そのものを変える必要があると強調する。「建設現場では納期遅延が常態化しています。INNO PANELで施工スケジュールの確実性が高まれば、施主は顧客との契約を確実に遂行できる。その信頼こそが、単なるコスト比較では測れない新しい経済価値です」。

日本にまだ「インテリア」という言葉が聞かれなかった時代に、同社は壁紙の取り扱いを開始し、時代の流れに対応しながら国内建築市場における壁紙の普及・発展を担ってきた。「インテリア業界は、人々の快適な生活や生産性を支えるエッセンシャルなビジネスです。伝統的な商品をアップグレードし続けながら、業界に携わる人々と共に、次のインテリア文化を形にしていきたい」(近藤社長)。

INNO PANELは、内装産業が直面する構造課題に対する未来に向けた最初の一手である。

※「スマートJG工法®」は吉野石膏の商標登録

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●問い合わせ先
株式会社サンゲツ
https://www.sangetsu.co.jp/