2024年4月、トラックドライバーに時間外労働規制が適用、いわゆる「2024年問題」が懸念され、物流業界は大きな節目を迎えた。官民の対応により、「物が運べなくなる」という致命的な機能不全こそ回避されたかに見える。だが、これは対症療法的な止血処置が功を奏したにすぎない。2024年問題は終わりではなく、「2024年から始まる問題」なのである。
2024年問題の本質が「労働時間の法的制約」であるのに対し、目前に迫る「2030年問題」の本質は「物理的な労働力の枯渇」にある。
人口減少が進む日本において、ドライバー不足は構造的課題だ。特に長距離ドライバーの高齢化は著しい。政府の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の試算によれば、このまま何も対策を講じなければ、30年度には国内の輸送能力が約34%不足すると予測されている。
荷物の三つのうち一つが運べなくなる危機
これは、日本の荷物の三つに一つが、運びたくても運べなくなる計算だ。経済活動の「血流」ともいえる物流が止まれば、日本経済そのものが「壊死」しかねない。2024年問題を「働き方」の是正とするならば、2030年問題は「供給網」の崩壊危機であり、その深刻度は桁違いである。
事態を重く見た政府は30年度までを「物流集中改革期間」と位置付け、総力戦で挑んでいる。もはや荷主と物流事業者の自助努力だけに頼るフェーズは終わった。「法的強制力」を持って、商慣習そのものを変革しようとしているのだ。
その象徴となるのが、26年4月までに段階的に完全施行される「改正物流関連二法」(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律〈物流効率化法〉および貨物自動車運送事業法の一部改正)である。これまで物流規制の網は主に物流事業者に掛けられていたが、今回の改正は、物流の依頼主である「荷主」に対しても強力な規制の網を掛けた点が画期的だ。
具体的には、取扱貨物重量・年9万トン以上の「特定荷主」に対し、物流効率化に向けた「中長期計画」作成や定期報告を義務化。また詳しくは後述するが、特定荷主および特定連鎖化事業者(フランチャイズチェーンなど)は役員クラスから「物流統括管理者(CLO=Chief Logistics Officer)」の選任が義務付けられた。
CLO選任をはじめ、計画に基づく取り組みなどが不十分と判断されれば、国からの勧告や命令が出され、最悪の場合、企業名が公表されるリスクもある。さらに、100万円以下の罰金も科されるなど、コンプライアンス上の重大リスクとして浮上している。
公正取引委員会(公取委)や中小企業庁の動きも見逃せない。24年11月に施行された「フリーランス新法」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)や26年1月に施行された「改正下請法」(中小受託取引適正化法)の運用強化により、これまで対象外とされていた荷主から運送事業者への「特定運送委託」が規制対象に追加された。
これにより、運賃の不当な買いたたきや、契約にない付帯作業(荷積み・荷降ろしなど)の無償要請は明確に法律違反となる。公取委と国土交通省の「トラック・物流Gメン」が連携し、監視の目を光らせる中、荷主企業は「知らなかった」では済まされない厳しい監視下に置かれているといえる。
法整備やCLO選任は物流を大きく変える
荷主への規制強化と並行し、物流事業者側の質的向上を促す「トラック適正化二法」も重要だ。これは、長年の課題であった多重下請け構造を是正し、ドライバーの賃金原資を確保するための“劇薬”ともいえる。
特筆すべきは、今後導入が予定されている「適正原価制度」である。国が「適正な事業運営に必要な費用(原価)」を算出して告示し、荷主や運送事業者に対し、その原価を下回らない運賃での契約を義務付けるものである。これは事実上の「最低運賃」設定であり、従来の市場原理任せの運賃決定を根本から覆す可能性がある。
また、トラック運送事業の許可に5年ごとの「更新制」が導入されることも大きい。コンプライアンスがおろそかな事業者は、更新時に市場退出を余儀なくされる。荷主にとっては、コンプライアンスを徹底し、適正な運賃で高品質な輸送を提供する「選ばれた物流パートナー」を見極める眼力が、これまで以上に問われることになるだろう。
この激変下、改正物流効率化法が特定荷主(約3000~3200社)に義務付けたのが、先述したCLOの選任だ。
なぜ、単なる「物流部長」ではなく、役員クラスの「CLO」でなければならないのか。それは、物流の問題がもはや現場レベルの改善では解決不可能な領域に達しているからに他ならない。
これまで日本企業では営業や生産部門の発言権が強く、物流部門は無理な要求を「コスト」として吸収する下請け的な役割を強いられてきた。これがドライバーの長時間労働や積載効率の低下を招いた主因である。
CLOの重要な任務の一つは、社内のパワーバランスを変えることにある。経営役員として営業・生産部門と対等に議論し、物流崩壊を招く配送条件にはブレーキをかける権限を持つ。全社的な視点でサプライチェーンを最適化し、持続可能な物流体制を再構築する。それができるのは、経営の責任を負うCLOだけだ。
CLOの役割は主に三つ。(1)数値目標を伴う中長期計画の策定と実行、(2)リードタイム延長などを指示する部門間調整、(3)自動化・省人化機器やDX(デジタルトランスフォーメーション)システムへの「成長投資」の決断である。
CLOの設置は、単なる法令対応ではない。物流を「コストセンター」から、企業の競争力を左右する「戦略的資産」へと格上げする絶好のチャンスともいえよう。
物流の変革の鍵は「共創」と「DX」にあり
では、CLOが描くべき「2030年の物流」とはどのような姿か。キーワードは「共創」と「DX」である。
個社ごとの最適化には限界がある。今後は、業界の垣根を越えた「共同輸配送(フィジカルインターネット)」への移行などが不可欠だ。ライバル同士でもリソースをシェアし、積載率を極限まで高める。長年の課題だったパレット標準化やモーダルシフトの加速、データ連携基盤の整備も急務となる。
人手不足を補うためのテクノロジー活用も待ったなしだ。
高速道路での自動運転トラックの実装、倉庫内の完全自動化など、DXによる省人化投資は、CLOが主導すべき重要課題の一つである。
政府は30年度に向け、荷待ち・荷役時間の年125時間削減、積載効率16%向上という野心的なKPI(重要業績評価指標)を掲げる。達成には、荷主、物流事業者、消費者が一体となった行動変容が欠かせない。
物流は今、歴史的転換点にある。「2030年問題」の断崖を前に、座して死を待つか、新たな司令塔であるCLOの下で進化し生き残るか。物流を次世代につなぐため、今こそ英断が求められているといえよう。
1969年10月の創刊から55年超にわたり「経済の中の物流」という視点から一貫した報道を行っている物流業界専門紙。物流報道の中に"荷主"という切り口を持った媒体として評価されている。主な内容は荷主企業の物流動向、行政の物流関連動向、トラック、倉庫、鉄道、海運、航空など物流企業の最新動向、物流機器、WMS(倉庫管理システム)ソフトなどの関連ニュースなど。週2回発行。




