連載第1~3回では、ブラック企業の職場で悶える会社員の赤裸々な声を紹介した。今回は、以前公的機関で労働問題の相談員を務めていた人物に、リストラを行う企業側の本音を聞き、さらなる真相を解き明かしたい。彼らの仕事は、社員の依頼を受けて経営側と交渉することだ。記事では、この元相談員を仮にA氏とし、筆者とA氏のやりとりを会話形式でお伝えする。
なお、ここで言う「公的な機関」を詳述すると、取材対象が特定されてしまう可能性があるため、匿名とさせていただきたい。また、記事には双方のやり取りの9割ほどを盛り込んだが、1割は会社や会社員などが特定し得る可能性があるため、省略した。
A氏は30年近くに渡り、会社員や人事部員、労働組合役員らの労働相談に対応してきた。解雇、退職勧奨、退職強要、賃金不払い、配置転換、いじめやパワハラ、セクハラなどについてである。
今回は、会社員を特に苦しめるブラック企業の「退職強要」について尋ねた。「退職強要」には、日本の企業や社会が抱え込む問題が凝縮されている。
「社員が大人しく辞めてくれない」
親に圧力をかける“退職勧奨”まで横行
筆者 退職勧奨や退職強要の相談で印象に残っているものは?
A氏 会社が親を使い、息子や娘である社員が退職するように仕向けることもあった。たとえば、人事部が親に連絡を入れる。そして「『会社に残っても居場所がないから早く辞めるべき』と、お子さんに説得してほしい」と言ったようだ。
それを親から聞いて、その社員が私のところへ相談に来た。社員を辞めさせたいと思えば、人事権を持つ人たちは実に様々なことをする。
筆者 人事部が興信所を使って(①)、会社と争う社員を調べる場合があることは、十数年前より弁護士や労働組合ユニオンの役員から耳にする。実際、取材の際に「(役員からの指示があり)内容証明郵便を送り付けた社員のことを調べた」と明言する、大企業の人事部の課長もいた。