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悶える職場~踏みにじられた人々の崩壊と再生 吉田典史

「もう、車に飛び込んで死んでしまいたい……」
心が壊れた課長を追い込む“リストラ面談”全記録

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第2回】 2013年7月16日
著者・コラム紹介バックナンバー
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 今回は、職場でいじめ抜かれ、苦しさのあまり衝動的に、走っている車に飛び込もうとした男性の近況を紹介したい。

 いわゆる「追い出し部屋」に送り込まれたこの男性と、人事部長とのやりとりを録音した音声ファイルを聞くと、職場に潜む「狂気」が見えてくる。男性の務める会社が世に言う「ブラック企業」かどうかは判断が分かれるところだが、この企業側の言い分には人の精神を破壊する仕掛けが満載であるように思う。現在、この男性と同じ境遇に置かれているビジネスマン読者にも、参考にしてほしい。

会社に必要なスキルが考慮されず
曖昧な理由で「追い出し部屋」に

 「スキルが陳腐になった中高年をリストラすることで労使双方が活性化する」

 「解雇規制を緩和することで、低賃金で喘ぐ20~30代が解放される」

 昨今、労働経済に詳しい識者の中からはこんな声も聞こえる。しかし、男性のようなケースを見る限り、彼らの指摘がいかに表層的なものであるかが浮き彫りになる。

 本来、企業では事業効率を最大化することを目的に、人材育成や人事配置が行われるべきである。その見直しの過程で、成果を出せない社員、やる気のない社員がリストラされるのは、止むを得ないこともあるのかもしれない。

 しかし実際には、「上司とそりが合わない」「周囲との関係が悪い」といった、本人の能力や実績とは関係のない曖昧な理由で、会社の覚えが悪い社員が退職勧奨を受けるケースも少なくない。

 また職場では、目的の社員をリストラした後にそれを穴埋めできる適切な人数、適切な能力の人材が新たに配置されるとは限らず、残った社員の業務負担ばかりが増していくなど、むしろ現場に混乱を招くケースも散見される。解雇規制の緩和以前に、「解雇ができる体制」に職場や職務構造がなっていないことが問題だ。

 一方、今の日本の労働市場では、リストラされた社員が心機一転、他の企業に転職して、前職と同水準の労働条件で第二の人生を踏み出せる可能性は、必ずしも高くない。そもそも、キャリアが市場とはマッチしない形で、つまりは、その会社に特用の形でつくられてきた以上、それは無理もない。

 まさに、残る社員もリストラされる社員も、悶え苦しんでいる状況だ。本来、こうした構造にメスが入れられないと、会社員は救われない。

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


悶える職場~踏みにじられた人々の崩壊と再生 吉田典史

 企業で働くビジネスマンが喘いでいる。職場では競争原理が浸透し、リストラなどの「排除の論理」は一段と強くなる。そのプロセスでは、退職強要やいじめ、パワハラなどが横行する。最近のマスメディアの報道は、これら労働の現場を俯瞰で捉える傾向がある。

 たとえば、「解雇規制の緩和」がその一例と言える。事実関係で言えば、社員数が100以下の中小企業では、戦前から一貫して解雇やその前段階と言える退職強要などが乱発されているにもかかわらず、こうした課題がよく吟味されないまま、「今の日本には解雇規制の緩和が必要ではないか」という論調が一面で出ている。また、社員に低賃金での重労働を強いる「ブラック企業」の問題も、あたかも特定の企業で起きている問題であるかのように、型にはめられた批判がなされる。だが、バブル崩壊以降の不況や経営環境の激変の中で、そうした土壌は世の中のほとんどの企業に根付いていると言ってもいい。

 これまでのようにメディアが俯瞰でとらえる限り、労働現場の実態は見えない。会社は状況いかんでは事実上、社員を殺してしまうことさえある。また、そのことにほぼ全ての社員が頬かむりをし、見て見ぬふりをするのが現実だ。劣悪な労働現場には、社員を苦しめる「狂気」が存在するのだ。この連載では、理不尽な職場で心や肉体を破壊され、踏みにじられた人々の横顔を浮き彫りにし、彼らが再生していくプロセスにも言及する。転機を迎えた日本の職場が抱える問題点や、あるべき姿とは何か。読者諸氏には、一緒に考えてほしい。

「悶える職場~踏みにじられた人々の崩壊と再生 吉田典史」

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