貿易黒字減少に腐心したのは“今は昔”
円安もあり13ヵ月連続で貿易赤字が拡大

 8月中旬、財務省が発表したわが国の貿易統計速報によると、今年7月のわが国の貿易収支は1兆240億円の赤字となった。これで、13ヵ月連続で貿易収支が赤字となったのである。

 赤字額としては過去3番目の高水準で、かつて多額の貿易黒字を減らすことに腐心した時代は“今は昔”のことになってしまった。

 貿易収支が赤字に陥った主な背景には、エネルギー資源や半導体関連の輸入が増加したこと、円安による輸入金額の膨張が輸出金額の増加を上回ったこと、そしてわが国の大手企業の海外進出に伴って、今までのように国内生産して輸出する形態から、海外生産したものを海外で販売する形態へと、経済構造の一部が変化していることがある。

 貿易収支が赤字に陥る一方、わが国は多額の所得収支の黒字(海外から受けとる所得から、海外に支払う所得を差し引いた金額)を稼いでおり、海外との資金のやり取りでは受け取り超になっている。そのため、依然として国内に経済的な富が蓄積する構造にはなっている。

 しかし、2012年度の経常収支の黒字額は4兆2931億円と、前年度比43.6%の大幅減少であり、経常黒字額が過去最高であった2007年度の24兆7220億円の約6分の1程度まで落ち込んでいる。

 今後、貿易収支の悪化などによって経常収支が赤字になるようだと、わが国が蓄積して来た富が海外に流出することになる。最悪のケースでは、我々が今の生活水準を落とさざるを得なくなるかもしれない。

 かつて、わが国が多額の貿易黒字を米国などから強く批判され、貿易摩擦に苦しんだ経緯があった。その貿易黒字はいつの間にかなくなり、すでに貿易収支は大幅な赤字が定着している。