11月24日、トルコによるロシア軍機撃墜事件が起きた。今回の事件をロシアvsトルコという単純な構図で語ることはできない。ISを巡る、大国群の入り乱れた思惑を解説する。
ロシア軍機撃墜事件の背景には
中東情勢を巡る大国群の思惑が
「われわれは、相手に自分たちが何をしたのかを常に思い知らせる。彼らは、自分たちの行為を後悔し続ける」
プーチンは12月3日、年次教書演説の中でこのように述べ、ロシア軍機を撃墜したトルコ、特にエルドアン大統領を震え上がらせた。世界中でテロを起こし続ける「イスラム国」(IS)。プーチンはISに対抗するための「幅広い反テロ連合」形成を呼びかけたが、そのプランを「撃墜事件」が一瞬で葬り去った。今回は、この事件の背景と理由を考えてみよう。
今回の事件に直接かかわっているのは、ロシアとトルコである。しかし、シリア・アサド政権、「反アサド派」であるIS、そして彼らを支援する大国群の複雑な関係を理解できないと、話が進まない。
まず、簡単に関係を整理してみよう。2010年から、中東と北アフリカで、「アラブの春」とよばれる革命運動が起こり、いくつかの独裁政権が崩壊した。11年、「アラブの春」の影響はシリアにおよび、内戦が勃発する。
反欧米のアサド現政権を支持したのは、ロシアとイランである。一方、「反アサド派」を支持、支援したのは、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリアだ。
そして、今回ロシア機を撃墜したトルコ、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦、ヨルダン、エジプトも反アサド派を支持した。これらの国々は、イスラム教「スンニ派」諸国である。シリアは、人口の約6割がスンニ派。しかし、アサドは「シーア派」の一派「アラウィー派」に属する。スンニ派諸国は、アサド政権を打倒して「スンニ派政権」を樹立したいのだ。
こうして、欧米+スンニ派諸国は、「反アサド派」を支持、支援した。この時、ちゃっかり「反アサド派」に入っていたのがISだった。ちなみにISは、かつて「イラクのアルカイダ」を名乗っていた、正真正銘の「アルカイダ系」である(現在は、アルカイダから離脱しているが)。つまり米国は、「9.11を起こした」とされる「最大の敵」を含む勢力を、「アサドと戦う善の民主主義勢力」と偽って支援し続けていたのだ。
さて、ロシアとイランに支援されたアサド政権は、なかなか倒れない。業を煮やしたオバマは13年8月、アサド軍が化学兵器を使ったことを理由に、「シリアを攻撃する」と宣言した。しかし、当初は同調していた英国、フランスが反戦に回る中で孤立。翌9月に戦争を「ドタキャン」し、世界を驚かせた。
ISは、この頃から、「反アサド派」の枠をこえ、独自の動きをするようになっていく。イラクとシリアにまたがる広大な地域を支配下に治め、14年6月には「カリフ宣言」をした。
突如現れたように思えるIS。しかしISは、「反アサド派」に属していた時代、欧米とスンニ派諸国からの資金、武器提供で強力になった。つまり、欧米とスンニ派諸国は、ISの「育ての親」なのだ。ISはその後、イラクとシリアの油田を占領。「世界一裕福なテロ組織」と呼ばれるようになった。