「どぶ板選挙」という言葉がある。選挙区の路地裏の一本一本まで歩き、支持を集める手法だ。辻立ち、ミニ集会を繰り返し、演説会場ではすべての聴衆と握手する。

 選挙中でなければ、もちろん戸別訪問も行う。そうしたことで有権者とじかに接し、政治家としての肌感覚を養う。ある意味、選挙活動は政治家の最高の学校にもなる。

 選挙だけではない。それはあらゆることに共通する。なにより現場に入ってみないとわからないことは多いものだ。

 今回の総選挙で、筆者は日本中の全選挙区の踏破を企図した。「週刊文春」の企画によるもので、きょう(8月27日)、その最終回の記事が掲載された号が発売される。

 もちろん、当地を単に訪問するだけではない。選挙区ごとに各選挙事務所を訪ね、秘書やスタッフにインタビュー、演説会場や街頭演説があれば、後援会支持者や聴衆らに話を聞く。

 告白すれば、この3週間ですべての選挙区を回り切ることはできなかった。だが、沖縄県を除く全都道府県を訪問、なにより、個別選挙区の事情を皮膚で感じることができたのが大きかった。

多くの有権者が持つ
自民党への懲罰的な意識

 猛暑の中のいわば「どぶ板取材」は楽ではない。300小選挙区、自民・民主の事務所の数を考えれば500ヵ所を超える。すべてを回ろうと計画したことから、一事務所の滞在時間は15分程度だ。

 それでも、東京のエアコンの効いた部屋に居ては決して知りえないことを知ったのは大きかった。

 たとえば、選挙戦序盤、メディアは、民主党への風が吹いていると伝えていた。ところが、現場を歩いているとそんな風は一向に感じない。確かに演説会場にいけば、多くの聴衆は集まっている。にもかかわらず、熱気のようなものは一切ないのだ。