「同一労働同一賃金」実現は、正社員にも無縁ではない安倍首相も踏み込むと考えを示した同一労働同一賃金。果たして日本に根付かせることはできるのか

 安倍総理は1月22日の施政方針演説で、正社員と非正社員の均衡待遇のために、同一労働同一賃金の実現に踏み込む考えを示した。これは、元々、野党の主張であった筈で、それを与党の政策として掲げたことにはどのような意味があるのだろうか。

 同じ仕事をしていれば同じ賃金というのは、市場が効率的に働いていれば自然に実現する「一物一価」の法則で、欧米の職種別労働市場では当然のことである。しかし、日本の企業別に分断された労働市場では、企業内部の正社員と外部の非正社員とでは大きな賃金差がある。これは正確には「年功賃金の格差」であり、若年層では小さく、中高年層で大きく拡がっている(図)。

正社員と非正社員の年収(大企業、男性、1000円)

「同一労働同一賃金」実現は、正社員にも無縁ではない

 正社員と非正社員の均衡待遇を阻む最大の障壁が、この年功賃金である。仮に、有期雇用の非正社員に年功賃金を適用しても、賃金が高まる前に離職すれば効果はない。「日本の雇用慣行に即して正規・非正規間の格差解消」という野党の主張があるが、現行の年齢や勤続年数で決まる賃金制度の改革なしに、どうすれば非正社員との賃金格差が解消できるのだろうか。

 毎年の春闘で、正社員の労働組合の最低限の要求は定期昇給であり、これは年功賃金そのものである。これに対して、職種別労働市場の需給関係による非正社員の賃金は、世界標準の決まり方である。均衡待遇実現のために変わらなければならないのは、正社員の生産性に見合わない年功賃金で、これを職業訓練等による非正社員の賃金底上げと一体的に行う必要がある。

年功賃金を維持したままで実現は不可能

 企業外の職種別労働市場と異なり、企業内労働市場では、職種の概念は明確でない場合が多い。これは過去の高い経済成長期には、技術革新に見合って新たな職種が次々に生まれたことや、慢性的な人手不足のなかで、熟練労働者を企業内に抱え込むために、年功賃金や多額の退職金等の「後払い賃金」が生まれた。こうしたなかで、個々の職種に見合った賃金ではなく、それに年齢や勤続年数等を加味する職能給も普及した。