われわれは、金融危機が世界的な金融恐慌に転化する崖っぷちに立った。9月29日、米議会下院が金融安定化法案を否決。このネガティブサプライズに、同日のNYダウは777ドルも暴落し、史上最大の下げを演じた。オランダ、イギリス、ドイツでも大手の金融機関が次々に実質国有化され、危機は欧州にまで広がっている。
金融システムは信用の上に成り立っている。米国では民間の金融機関が信用を失っている今、その信用を回復させられるのは政府・中央銀行しかない。今回の否決は、その信用をも失墜させかねない事態である。このまま金融危機が続けば、政府が「超法規的」に、預金者、投資家、金融機関に対する債権者のすべてを守ると宣言しなければ、事態が収拾できなくなるだろう。
その時、政府自身の信用がなくなっていれば、悪夢である。だが、今回の米議会のどんでん返しを見る限り、多くの人がこの現代に恐慌などという悪夢が再現するとは思っていないことを示している。それは危機が政治家や納税者の目に見えないところで、進行しているからにほかならない。
今、危機は短期金融市場、なかんずくインターバンク(銀行間取引)市場で深化している。インターバンク市場とは銀行を中心とする金融機関が、資金の過不足を調整するために、おカネを貸し借りする市場である。個人や一般企業は参加できない、いわばプロ同士の市場だ。
例えば、銀行は預金で集めた資金をすべて現金で持っているわけではない。預金を貸し出したり、国債などの有価証券に投資して利益を稼ぐ。このため現金は必要最低限しか持っていない。預金の受け入れ・払い出し、あるいは決済で、銀行には日々、資金の過不足が生じる。資金が余っている銀行は短期金融市場におカネを放出し、足りない銀行がこれを取り入れることによって、金融界全体で過不足を調整している。
日本では1997年11月初め、三洋証券が破綻し、コール市場(短期金融市場の一種)で、戦後初めての返済不能が発生した。その額はわずか10億円。それでも短期金融市場は凍りついた。危ない金融機関はどこかという疑心暗鬼が市場全体に広がり、資金の出し手が極端に少なくなった。このため、同月中旬には、北海道拓殖銀行が資金繰りに窮して破綻したのである。